旧説帝都エデン
「いたぁ〜い。どうして受け止めてくれないんですか」
「いや、普通避けるでしょ」
「もしかして、テンチョあたしのこと嫌いなんですかぁ〜。あたしの愛を受け止めてくれないなんてヒドイです」
ハルナの目は少し潤んでいる。本気の泣きだ。
「あのだから、何でそういうことになるの」
時雨はハルナにやさしく手を差し伸べた。
「ほら、立って」
手を借して立ち上がったハルナに時雨がいつもどおり言う。
「あのさぁ、渋いお茶入れてきてくれないかな」
「お茶を飲んだら元気になってくれます?」
「まぁね」
「じゃあ、急いで入れてきますね」
元気よくハルナは台所に駆け出していった。
「あ、あのさぁ、おせんべえもお願い」
「は〜い♪」
台所の奥からハルナの声が聞えてきた。
ハルナがお茶を入れ戻ってくると、時雨はこたつに入って、静かな寝息を立てていた。
「人にお茶を頼んでおいて寝ちゃうなんてヒドイですよ、もぉ」
ハルナはお茶とせんべえを置くと、時雨のほっぺたを軽くつかんだ。
「寝顔もカワイイですね」
ふと窓の外を見たハルナの目に、大粒の強い雨が飛び込んできた。
「にわか雨かな……洗濯物取り込まなくちゃ」
ハルナが急いで洗濯物を取り込みに向かった。
「……ありがとう」
急ぎ足のハルナの耳にそんな声が微かに聞えたような気がした。
曇る空の色 完
作品名:旧説帝都エデン 作家名:秋月あきら(秋月瑛)