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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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「ツイてなさすぎる、このツイてない加減は異常だよ、呪いかなにかをかけられたのかな? ……でも、そんな呪いをかけられることし……てるよね毎日。はぁ、今度命[ミコト]のとこ行って御祓いしてもらおう」
 そして彼は情報屋に直接会うためにある場所へと足を運ぶことにした。

 AM9:13――。
 時雨の訪れた情報屋はツインタワーと呼ばれるビルの中にその店を構えていた。
 ツインタワーとはその名に由来するとおり、同じ形をした地上100階建ての二つのビルが並んで立っていて、そのビルの中にはありとあらゆる店が軒を並べている。
 通称ウェストビルと呼ばれるビルには一般人の利用する、デパートや映画館などの店が軒を並べているが、向かい側にそびえ立つ通称イーストビルはコアな帝都市民の巣窟と化していた。その理由はイーストビルの中にある店がどれも特殊極まりないからである。
 イーストビルの中には怪しげな魔導具を取り扱う店や探偵事務所、軍事兵器を横流しする店から暴力団組織のオフィスまでとありとあらゆる帝都の裏の顔がそこにはあった。
 情報屋はイーストビルの46階にそのオフィスを構えていた。この情報屋は帝都一の実績と高額料金で有名な店だった。
 時雨がオフィスの中に入ると受付嬢が時雨に向けてニッコリと微笑み軽く会釈をした。
「おはようございます、時雨様。今日は何の御用でしょうか?」
受付嬢の歌うような声が静かなロビーに響き渡り、まるでここだけ春が来たような清々しさに包まれる。
「えぇとー、真くんに会いたいんだけど」
 間延びした声が静かなロビーに響き渡る。それはまるで少し寝ぼけた天使の歌声のようだった。
 受付嬢の頬が少し赤らんだ。なぜなら、時雨が自分を仔犬のような瞳で見つめているからだ。時雨の表情は眠気に満ち溢れていたが、その顔は中性的な美しさに満ち溢れており、その瞳で見つめられた者は誰しもその若者に恋心を抱いてしまうほどである。
 彼の美しさは帝都でも有名で人々の中には彼のことを『帝都の天使』と呼ぶ者もいた。そんな彼に見つめられてしまった受付嬢は言葉を忘れ時雨の顔をうっとりしながらただ見つめるだけだった。
 時雨は軽く咳払いをして、
「あのぉ真くんに会いたいんだけど……」
 天使の声を聞いて我に返った受付嬢は?はっ?とした表情をして照れ笑いを浮かべた。
「あっ、すいません、社長なら自室で妄想に耽っていると思いますけど……」
「ありがとう」
 時雨は受付嬢に対して満面の笑みを浮かべた。それは彼女にとっての痛恨の一撃であり、それを受けた受付嬢はその場に失神してしまった。彼女が時雨の笑顔で失神したのはこれでちょうど100度目のことだった。

 帝都の天使は機械だらけの部屋の中にいた。部屋の壁は金属でできており、部屋中を無数のプラグや何に使うのかまったく見当のつかない機械がゴロゴロとしていた。
 部屋の真ん中にはプラグを全身に繋がれた男が座っている。その男は変な機械を頭から目元まですっぽりとかぶっている。
 そして、部屋の上空にはソフトボール位の金属製のボールが二つ、忙しなく動き回っていた。
 時雨は床に張り巡らされるプラグを爪先立ちで軽やかに踏まないようにして、部屋の中央に座っている男に近づき声をかけた。
「真[シン]くーん、おはよう」
 少し大声で呼びかけをしたが返事はなかった。返事の変わりに返ってきたのは奇怪な言葉だった。
「あぁ時間[トキ]が見える。おぉっと、そこで右フックだ、いやむしろかぼちゃだろ……次回に続くのかぁぁぁー!!」
 真くんと呼ばれた男は完全にトリップしている真っ最中だった。
「はぁ、いつもこれだよなぁ」
 少し呆れた表情を浮かべている時雨にも気づかない様子の真は頭をガクガクと揺らし、どこかに飛んでいる。
 真と呼ばれた人物は頭から目元まですっぽりとかぶった装置によって、帝都のありとあらゆる情報を瞬時に検索し映像として取り出すことができる。
 真は深く呼吸をした。
「時雨か、今日は何の用だね」
 こいつ切り替えが早い、と時雨はこの時思った。
「なんだ、気づいてたんだ」
「当たり前だ……ん? 顔色が優れんようだがどうした?」
 真は頭から目元まで変な機械をかぶっているが相手の姿が手にとるように見ることができる。それは、この部屋に浮かんでいる小型カメラのおかげである。このカメラは真専用のカメラなのだが、彼はこのカメラ以外のカメラが映し出す映像も瞬時にアクセスすることができる。
 アクセスできるカメラはネットワークに接続されているカメラにかぎられているのだが、カメラ以外のものでもネットワークに繋がれていれさえいればどんなものにもアクセスすることが彼には可能だった。
 時雨は真ではなく、上空に浮かぶカメラに話しかける。
「大雪が降っててさ、ここまで来るの大変だったんだよ」
 真はネットワークに入り込み、帝都の現状について検索をした――。
「ふむふむ、帝都は今までにないほどの大雪に見舞われているのか……すごい吹雪で前が見えん……気温がマイナス33度! ……こりゃ寒い」
 真は完全にアッチの世界に逝ってしまった。そんな真を細い目で見る時雨。
「……あのさぁ」
 真は時雨の声に呼び戻されコッチの世界に無事生還して来た。
「すまん、すまん、所で今日は何の用だね」
「今、世間をお騒がせしてる、生命科学研究所から逃げ出した実験サンプルが何処にいるか調べてほしいんだけど」
「帝都公園のスケートリンク」
「はやっ!!」
 真は時雨の質問を瞬時に答えて見せた。
「辺りまえだ、このニュースは帝都で今一番の話題の的だからな、つねに最新の情報にアクセスしている」
「ありがとう、情報料は勝手にボクの口座から引き落としといて」
「もうお帰りか?」
 時雨は真に手を振りながら部屋を後にした。
「おぉっと、サバンナモンキーがぁぁぁっ!!」
 時雨が部屋を出たとたん真はすぐにトリップしていた。
「帝都在住S子さん38歳の証言によると……何ぃ、家政婦は見ていただと!?」
 真のトリップはどこまでも、どこまでも続いた……。

 ツインタワーと帝都公園は目と鼻の先だ、歩いて5分とかからないハズ……だった。
「吹雪で前が見えないー、何処なのここは、もう10分も歩いてるのに何で着かないのー」
 そして、結局時雨は帝都公園まで15分の時間を要してしまった。
「どこだサンプルは……」
 吹雪は激しさを増し、寒さも一段と厳しくなっていた。
「……何にも見えない」         
 そう、何も見えなかった。そして時雨の左半身も雪によって見えなかった。
「……気温が急激に下がった、しかも吹雪が激しさを増してる……近くにいるってこと?」
 敵の気配を感じ、体勢を整えようとするが身体は腰まで雪に埋もれ俊敏な動きができない!
 ドゴッ! 時雨は背中に激痛を覚えた。
「不意打ちなんてツイてないよ……ぐはっ」
 白い雪が紅く染まっていく。
「姿なき暗殺者って感じだなぁ」
 そう言いながら時雨はコートのポケットから手に収まるぐらいの棒を取り出し、それに付いているボタンを押した。すると棒の先端から閃光が飛び出した。