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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 時雨の腕の中には人災マナが抱えられ、襲い掛かって来るシザーハンズに、連続発射される〈ブリリアント〉レーザー。
 戸惑いの表情を浮かべている時雨の肩が鉤爪によって抉られる。肩から大量の血を流す時雨であるが、そんなことはまだ些細な傷でしかない。今の目の前に迫っている〈ブリリアント〉は死だ。
 幾本もの光の帯を時雨はマナを抱きかかえながら路上に飛んで避けた。
 路上に転がる時雨の手はマナと村雨によって塞がれており、時雨は腕から地面に転がった。
「……痛い」
 きっと、腕や肘に青痣ができたに違いなかった。
 瞬時に時雨は立ち上がり、妖しく輝く妖刀を構える。だが、状況としてはよろしくない。
 〈シザーハンズ〉とアリスに命を狙われるなんて、ありえない展開だった。
「あのさぁ〜、なんでアリスに命狙われてるの? 日頃の恨みとか?」
「にゃーっ!!(後ろ!)」
 立ち上る煙の中からシザーハンズが煌いた。そして、前方には〈コメット〉を構えたアリスが!
 鉤爪を軽やかに躱した時雨は村雨の電源を切った。輝く光が時雨の握る柄の中に消える。
 すでに時雨はヤケクソであった。こんな状況で二人も相手にできない。
「逃げるが勝ち!」
 背を向けた時雨に〈コメット〉が発射された。
 轟々という凄まじい音で後ろから〈コメット〉が迫っているのがわかる。
 時雨はタイミングを見計らって地面に伏せて〈コメット〉をやり過ごした。だが、〈コメット〉には追尾機能がついていた。
 空中で円を描き方向転換をした〈コメット〉が時雨に襲い掛かる。正確にはマナに襲い掛かる。
「にゃーっ!(早く避けてぇん!)」
「何あれ!?」
 声を荒げながら反則だと時雨は内心で思った。
 〈コメット〉から逃げるために逆走をはじめる時雨であるが、その先にはシザーハンズ、そのもっと先にはアリスがいる。もしかしたら〈コメット〉に向かって走った方が、助かる可能性が高いかもしれない。
 時雨の眼前に迫った狂信者がシザーハンズを構えた。
 妖刀村雨が光の粒子を迸せる。
 妖刀から勢いよく飛び出した光の粒は狂人者の目を暗ませた。だが、狂信者の目を暗ませても意味がなかった。本体は〈シザーハンズ〉なので目暗ましは効果がない。
 2対のシザーハンズが時雨に振り下ろされる刹那、狂人者の身体を強烈な光が貫き、時雨をも貫こうとした。
 時雨は光を辛うじて避けた。
 狂信者の身体を貫いたものは光の槍であった。それをしっかりと握り締めているのはアリスだ。アリスは〈レイピア〉を召喚[コール]して、マナを狙ったのだ。そこにたまたま障害物となる狂人者がいたに過ぎない。
 〈レイピア〉を引き抜かれた狂人者の身体は地面に倒れた。
 その後ろにいた機械人形アリスは無表情のまま〈レイピア〉を構え直す。
「時雨様、マナ様をお渡しください。わたくしの使命はマナ様の抹殺であり、他のお方に危害を与えるつもりはありません」
 『ウソつけ!』とマナ&時雨は思ったが、それは口に出してはいけないような気がした。
 〈レイピア〉は明らかに時雨に向けられていた。マナを渡さなければ容赦しないということだ。
 時雨はアリスとマナを交互に見た。
「つまり、マナを渡せば問題解決って――」
「にゃぎゃ〜!(莫迦っ!)」
 猫爪攻撃を時雨は頬に受けた。ヒリヒリと沁みる痛さだ。
 やはりマナをアリスに渡すべきだと硬く決意した時雨であったが、交渉はすでに決裂していた。以外にアリスの気は短かった。
 〈レイピア〉を還したアリスが再びコードを唱えようとする。だが、その時、地面に転がる狂人者の手が動いた。否、動いているのは〈シザーハンズ〉であった。
 狂信者が死のうとも〈シザーハンズ〉は死なない。当たり前のことを忘れていた。
 機械人形と〈シザーハンズ〉が共鳴する。二つのモノをこの世につくり出したのは者の名はセーフィエル。全ては夜魔の魔女セーフィエルの策略であった。
 アリスの腕に〈シザーハンズ〉が装着される。だが、様子が可笑しい。
「コード013――〈シザーハンズ〉認証開始――エラー、エラー、エラー、エラー、エラー!?」
 本来は問題なく〈シザーハンズ〉はアリスの追加機能になるはずであった。
「にゃ……!?(もしや!?)」
 マナはアリスの身体を勝手にカスタマイズしていたことを思い出した。それが原因だった。
 交互性に問題が生じた。それは、暴走の序曲となった。もちろん元凶はマナである。
「コード000アクセス――70パーセント限定解除。コード007アクセス――〈メイル〉装着。コード005アクセス――〈ウィング〉起動」
 身体のラインを強調する白いボディースーツがアリスを包み込む。背中に鳥の骨組みのような黄金の翼が生え、腕には〈シザーハンズ〉が身体の一部として左手だけに装着されている。
 この事態に焦るマナ。そして、時雨がぼそっと呟く。
「逃げるの忘れてた……」
 アリスと融合した〈シザーハンズ〉は鳥の嘴[クチバシ]のように形が変形しており、その口が急に開かれた。
 時雨は開かれた嘴型の鉤爪の奥にある闇が輝いたのを見た。
「マズイっぽい!」
 鉤爪にエネルギーが集中していき、それは放たれた。
 〈シザーハンズ〉はただの鉤爪から魔導砲の役割を担うようになっていた。
 発射された魔導砲を辛うじて避けた時雨はそのまま後ろを振り向いた。そこには直径3メートルほどの穴がビルの壁にぽっかりと空いていた。アリスの放った魔導砲はビルの壁を溶かし、遥か数百メートル先まで見渡せる穴を作っていた。
 シャレにならない破壊力だった。今の攻撃が身体に掠りでもした時点で人間は即死だろう。時雨のロングコートをよく見ると、焦げているのがわかる。
 マナを抱える時雨はアリスの目を見据えながら、ゆっくりと後退していった。後ろを振り向いた瞬間に絶対に殺される。
 それにまともに戦うのも賢明な選択ではない。無事では済まないのは明白だった。
 冷や汗を流す時雨の腕の中でマナが鳴いている。
「にゃん、にゃん(アリスの様子が可笑しいわよぉん)」
 マナが必死にアリスの方を見ろと言っているのが時雨に伝わった。
 アリスは魔導砲を放ってから身動き一つしていなかった。
 突然、とても濃い夜の香りが辺りを満たした。
 冷たい風と共に闇の奥から時雨が先ほど出会った女性――セーフィエルが姿を現した。
 セーフィエルはアリスの身体を調べはじめた。
「どうやらオーバーヒートをしてしまったうようね。残念だわ、これからおもしろいところだったのに」
 セーフィエルはアリスの背中を開けて内部をいじくると、妖艶とした笑みでマナを見つめた。
「結構楽しかったでしょ? アリスのこと、またよろしくね。精々こき使ってやって頂戴」
 この言葉に時雨とマナの頭に『?』マークがいくつも飛び回った。
 呆然と立ち尽くす二人を尻目にセーフィエルは背中越しに手を振った。
「じゃあね、またお会いしましょう」
 闇の中にセーフィエルは消えた。
「何あの人? マナの知り合い?」
 時雨は不思議な顔をしてマナを見つめるが、マナにも状況が把握できていない。
 再び、夜の香りがした。だが、今度は声のみだった。