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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 〈レイピア〉を還したアリスが再びコードを唱えようとした時だった。地面に転がる狂人者の手が動いた。正確には、動いているのは〈シザーハンズ〉だった。
 機械人形と〈シザーハンズ〉が共鳴する。どちらもそれはソーフィエルのつくり出した魔導具であった。
 アリスの初期コードは010まである。だが、アリスは拡張パックを取り付けることが可能に造られていた。
「コード013――〈シザーハンズ〉認証開始――エラー、エラー、エラー、エラー、エラー!?」
 アリスの腕に装着された〈シザーハンズ〉。だが、様子が可笑しい。
 交互性に問題が生じた。それは、暴走の序曲。
「コード000アクセス――70パーセント限定解除。コード007アクセス――〈メイル〉装着。コード005アクセス――〈ウィング〉起動」
 アリスの身体を白いボディースーツが包み込む。その背中に黄金の翼が生え、腕には〈シザーハンズ〉が装着されている。
 この事態に焦るマナ。そして、時雨がぼそっと呟く。
「逃げるの忘れてた……」


 魔導と科学の融合により発展を続けて来た帝都エデン。その繁栄のひとつの象徴は、都市が決して眠らないということ。
 魔導炉から二十四時間供給されるエネルギーは都市の生活を彩り、街を輝かせる。
 昼にも似いているが、その賑わいは夜特有のものだ。漆黒の空には満月が浮かんでいる。夜はあくまで夜なのだ。
 時雨は宇宙[ソラ]を見上げ、星の瞬きに耳を傾けている。
「同じ感覚がする……」
 目を瞑りあることを思い出し、そう呟いた。
 ある事件が帝都の街を賑わしている。
 報道各社はその事件の大々的な特集を組み、昼のワイドショーの時間帯には主婦たちが家事を一休みして、こぞってTV画面にまるで吸い込まれるように顔を近づけ、その報道に釘付けとなっていた。
 狂信者シザーハンズ――5ヶ月前にこの帝都の街を賑わした狂気殺人者の名前だ。そいつがまたこの街に現れたらしい。
 シザーハンズに殺された被害者は既に15名を数えた。
 殺害されたのは皆若く髪の長い女性で、深夜の時間帯に街を独り歩いている時に襲われた。そして、身体を八つ裂きにされ、身包みを剥がされ路上に放置される。それがシザーハンズの手口であった。
 犯人の特定はできていない――いや、できない。
 なぜならば、シザーハンズは人間ではない。むしろ生物でもない。シザーハンズの正体は女性を八つ裂きにした?爪?その物だということが分かっている。
 時雨は未だに宇宙[ソラ]を見上げている。だが、その目は閉じられている。
 時雨は以前シザーハンズと戦ったことがある。しかし、彼はシザーハンズに逃げられた。それ以降シザーハンズの話はすぐに過去の記憶と化した。
 今回、シザーハンズが帝都に舞い戻って来たとのニュースを時雨は聞いた時、自ら今回の仕事に名乗りをあげた。別に汚名返上だとか名誉挽回、プライドがどうこうという問題ではない。ただ、時雨は嫌な予感に苛まれた。
 仕事の以来がなくとも時雨はシザーハンズを自ら探し出す気でいた。だが、幸運にも今回も帝都役所からシザーハンズ駆除の依頼が舞い込んで来てくれた。
 時雨は空に浮かぶ蒼白い光を放つ丸い物体を見上げこう呟いた。
「はぁ、また満月かぁ」
 満月の晩のこの街は危険だ。
 満月が不思議な魔力のようなものを持っているという話は有名な話である。この街ではその魔力が最大限に発揮されると言っても過言ではないだろう。
 普段は身を潜めている妖物たちが街に繰り出し暴れまわる。今晩もどこかで帝都警察と妖物が戦争さながらの攻防戦を繰り広げているに違いない。
 時雨が立っている場所は中型ビルの屋上であった。この場所で時雨はダウジングをしていた。
 肌身離さず時雨が持っているタリスマンと呼ばれる石のついたネックレスがダウジングの道具となる。
 紐にぶら下げられたひし形の石が揺ら揺らと動く。それは周りの空気を無視した動きで、石が意思を持っているのかのようである。
 前回シザーハンズを探し出した時もダウジングを利用した。今回もそれで探せると思ったが、なぜかうまくいかない。
 ため息をつく時雨に誰かが声をかけた。
「こんばんは」
「誰?」
 そこには見知らぬ女性が立っていた。
 闇に溶ける喪服のような服を着た黒髪の女性。風が服とその髪から夜の匂いが香る。
 謎の女性に時雨はどことなく知り合いのマナと同じものを感じた。見た目の雰囲気も違うが纏っている特有の気が似ているのだ。
「シザーハンズをお探しでしょ?」
「そうだけど……」
 明らかな不信感を時雨は顔で示した。この女性から危険の匂いがする。
 女性はビルの下を指差した。
「ほら、そこにいるじゃない」
「えっ!?」
 驚きであった。女性が指差した道路の上に鉤爪を装着した男が歩いているではないか!?
 時雨は驚いた顔をしながら女性の方を振り向いたが、すでに女性の姿はなく、そこには芳しい香りが残っているのみだった。
 すぐさま時雨は不審な男がいた路上に出たが、すでに男の姿はなかった。だが、しかし、突如どこからか女性の悲鳴が聞こえた。
 悲鳴の聞こえた場所は近い。
 時雨はビルとビルとの間にできた裏路地に入った。すると女性が時雨の横を擦り抜け、すぐに鉤爪を装着した狂信者がそれを追うように姿を現したではないか。
 時雨は確信した。狂信者の装着している鉤爪は間違いなく〈シザーハンズ〉だ。
 〈シザーハンズ〉も時雨のことを覚えていた。だからこそ、?セーフィエル?は時雨に手を貸した。
 コートのポケットに手を入れた時雨はあるものを取り出した。
 辺りが時雨を中心として眩い光に包まれた。
 閃光を放つ物体を握り締める時雨。その物体は妖刀村雨という名前の魔導と科学の融合が創り上げた剣であった。
 時雨に狂信者からシザーハンズが繰り出される。
 ビュゥンと風を切り、村雨が片一方の鉤爪を撥ね退け、コートの裾を舞い上げながら円舞する時雨の二撃目がもう片方の鉤爪の攻撃を受け止める。
 すぐさま時雨は後ろに飛び退いてシザーハンズと間合いを取る。だが、シザーハンズと間合いを取った瞬間、辺りが眩い光に包まれ、時雨は細い目をしながら爆発音がした方向を振り向いた。
 ダイヤの輝きを思わせる美しい光を放つ4つの球体を従える人形のような美少女。それは人形のようなではなく、人形であった。
「アリス!」
 遠くにいる機械人形アリスを確認した時雨の胸に黒い物体が飛び込んで来た。その黒い物体は黒猫であり、その黒猫は時雨の知り合いであった。
「マナ!?」
「にゃ〜ん!(あたり!)」
 状況がイマイチ掴めない時雨であったが、こっちの状況よりも今まで自分が直面していた状況の方が急を要した。
 意識を乗っ取られた狂信者からシザーハンズが繰り出された。
 風を切る鉤爪を輝く妖刀村雨が力強く受け止める。だが、シザーハンズは両腕に装着されている。
 残ったシザーハンズが時雨を襲う、それと同時に不幸なことにアリスの〈ブリリアント〉レーザーが発射された。
「はぁ!?」
 あまりの危機的状況に素っ頓狂な声を上げる。