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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 マナはセーフィエルの放った魔導を避けようとしたが、すでにマナの足は地面に張り付いて動けなかった。セーフィエルの話は時間稼ぎだったのだ。
 月光を放つ魔導はマナの胸に直撃して、そのまま身体の中に吸い込まれていった。それを見て満足そうな笑みを浮かべるセーフィエル。
「今のは月の光そのものなのよ」
 マナのスカートの裾から、黒くてくにゅくにゅと動く長いモノが出た。そして、マナの頭には猫の耳が生えた。
「まさか!?」
 驚き慌てるマナの身体は徐々に黒い毛で覆われ縮んでいき、やがては黒猫の姿となってしまった。
「にゃ〜ん」
「可愛らしい声で?泣いても?駄目よ。あなたは一生そのまま……ふふ」
 微かに笑ったセーフィエルは風に揺らめき姿を消した。

 猫にされたマナは歩道に立ち尽くしながら考える。
 状況としては悪い。まず、ただの猫になってしまっている。それは即ち、人語をしゃべることができない。そして、なによりも重大なことは魔導が使えないということ。
 ここでマナは最優先事項を考える。今までの最優先事項はファウストの命令であった。が、今は緊急事態だ。幸運なことに自宅もすぐそこだ――帰ろう。
 自宅の正面門を潜ったマナはため息をつく。猫になると自宅の庭が広いことに腹が立つ。歩けど歩けど、玄関は遠い。
 噴水広場を抜ければ玄関はすぐそこだ。
 玄関のドアが内側から開かれた。姿を現したのは機械人形のアリス。
「マスターお早いお帰りでございますね」
「にゃ〜ん(よかったわぁん)」
 これでひとまず助かった……助かった?
 マナはここで重大なミスをしたことに気がついてしまった。
「お命頂戴致します」
「にゃ〜っ!!(しまったぁ〜!!)」
 焦るマナ。戦闘の構えをするアリス。漲る殺気。
 機械人形アリスは殺人人形[キリングドール]であった。
 疾風の如く翔けたアリスは足を大きく振り上げた。
 マナの眼前に迫る足の裏。それは何かを踏み潰そうとしている体制。つまり、マナは踏み潰されようとしていた。
「にゃ〜っ!!(殺される!!)」
 間一髪でアリスの攻撃を避けたマナの額に冷たい汗が流れた。
 アリスの右足が地面に埋まっている。あれを喰らっていたら即死どころの騒ぎではなかった。臓器などが……かなり悲惨なことになっていたのは間違いない。
 マナ四足で全速力を出した。だが、たかが猫VS殺人人形。マナの敗北は決まっていた。
 今まで後ろにいたはずのアリスがマナの前に立ちはだかる。
「マナ様、もっと必死にお逃げになってくださらないと面白くありません。さあ!」
 相手を小莫迦にした笑みを浮かべるアリス。狩を楽しんでいるのか、日頃の恨みか……。マナは楽には逝かせてくれないと身震いをした。
 マナは再び走り出した。
 自宅の庭は広いので逃げ場ならいくらでもある。が、ここは外に助けを求めた方が懸命だ。しかし、今走っている方向は正面門とは逆方向。距離はあるが、ここのまま裏門まで行くしかない。
 アリスは動かなかった。ハンデを与えているのである。
 不審に思ったマナは足を止めて後ろを振り返ってしまった。後ろなど振り返らずに早く逃げるべきだったと瞬時に後悔する。
 掌を天高く上げたアリスは声高らかに唱えた。
「コード000アクセス――30パーセント限定解除」
 魔導を帯びた風がアリスを包み輝かせる。そして、まだ何を唱えている。
「コード003アクセス――〈コメット〉召喚[コール]」
 天[ソラ]より召喚された巨大なロケットランチャーを小柄なアリスが肩に担いだ。
 死の恐怖を感じたマナは全速力で逃げた。
「ターゲット確認――ショット!!」
 爆音と共に発射された魔導弾が光の尾を引きながらマナに襲い掛かる。
 轟々と地面ギリギリに飛ぶ魔導弾は、大地を剥ぎ取り、風を巻き起こす。
「にゃぎゃ〜っ!!(助けてぇん!!)」
 叫び声をあげるマナの横を魔導弾が抜ける。その反動でマナは巻き起こった風によって大きく飛ばされた。
 魔導弾をギリギリで躱したマナは一息ついて前方を見た。魔導弾は〈コメット〉の名に相応しく彗星のように輝き飛んでいく。と思えたのもつかの間。魔導弾は軌道修正をしてマナに向かって再び進路を変えた。
 前からは魔導弾、後ろには〈コメット〉を構えたアリス。――まさか!?
 轟音を立てながら再び〈コメット〉が発射された。それは挟み撃ちだった。
避ける間もなく魔導弾の直撃を喰らう瞬間、マナの身体は抱きかかえられて上空に舞い上がっていた。
「にゃ?(何?)」
 マナは地面から舞い上がって来る爆風を感じながら、自分を抱きかかえている人物の顔を見上げた。
「おはようぉ〜、マナちゃん!」
「にゃ〜ん!(ああ、夏凛ちゃん!)」
 危機一髪のマナを救い出したのはゴスロリドレス姿がよく似合う夏凛であった。
 容姿も声も女性のようだが、夏凛は肉体的には男性だ。
 軽やかに地面に着地した夏凛は息も付かずに全速力で走った。
「マナちゃん、どうしてアリスちゃんに殺されかけてるの?」
「にゃ〜ん(説明すると長くなるのだけど)」
「やっぱり言葉がわからないからいいや」
 最もだった。『にゃんにゃん』鳴かれても夏凛には猫語が理解できない。そもそも猫語というもの存在しているのか?
夏凛はマナの魔導ショップに買い物に来たのだが、そこでちょうどマナが?何故?か猫になっていて、しかもアリスに襲われているのを発見した。
「マナちゃんこれからどうするぅ? 後ろからはアリスちゃんが追って来てるみたいだけど、あんなに可愛いアリスちゃんと戦うのはよくないよね?」
「にゃん!(殺っちゃって!)」
「そうだよね、可哀想だもんね」
 マナの言葉は全く夏凛に通じていなかった。
 夏凛はマナを抱きかかえながら正面門を抜けて路上に出た。その後をすぐにアリスが追う。
「コード000アクセス――50パーセント限定解除。コード005アクセス――〈ウィング〉起動」
 アリスの背中に突如翼のようなものが生えた。翼と言ってもそれは羽根などがなく、骨組みだけの翼である。
 魔導がアリスの翼に宿り黄金色に輝かせる。それはまるで天より光臨した神聖な存在であるかのようだった。
「コードΩアクセス――〈メルキドの炎〉1パーセント限定起動」
 アリスは上空から地上を走る夏凛たちに両手を向けて叫んだ。
「昇華!」
 紅蓮の炎が地上に降り注ぐ。それを見た夏凛は泣き叫ぶ。
「わお! アリスちゃんって何者なのぉ〜!? 〈メルキドの炎〉って!?」
 〈メルキドの炎〉を躱した夏凛はそのまま道路を走行するトラックの屋根に飛び乗った。後ろを見るとアスファルトの地面が赤く溶けていた。
 夏凛は車の屋根の上にマナを降ろして優しく微笑んだ。
「ガンバ、マナちゃん!」
 それは別れの挨拶であった。
 夏凛は時速60キロメートルほどで走っているトラックの上から軽やかにジャンプした。
 トラックの屋根の上に取り残されたマナは唖然とした。――逃げられた!?
 上空からはメイド服を着た飛行物体が追いかけて来る。
 トラックの上に乗ってマナ逃げているようにも思えるが、実は逃げ場を失っている。その証拠に――。
「昇華!」