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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 しばらくして部屋をノック音が聞こえた。
「どうぞお入りになってぇん」
 部屋に入って来たのはアリスだった。
「ファウスト様に紅茶をお持ちしたのですが、どうやらお帰りになられたようですね」
「その紅茶、私がもらうわぁん。それから、朝食を新しく持って来て頂戴」
 マナの言葉を受けてアリスは空になった朝食を見てため息をついた。
「ファウスト様がお食べになられたのでございますね」
 一瞬何かを小莫迦にした笑みを浮かべたアリスは空になった食器を持って部屋を出て行った。

 朝食を取り終えたマナはしぶしぶ外出した。
 満月の日は黒猫になってしまうという呪いもあるのだが、どういうわけだがマナはそれ以外の不運に見舞われることが多い。
 マナは自宅の屋敷の正面門を潜り抜け道路に立って腰に手を当てて仁王立ちした。シザーハンズが魔導具であり、それを創ったのがセーフィエルであることはわかった。が、何をしていいのかがわからない。そもそもシザーハンズが現れたのは全て夜であった。
「……何すればいいのよぉん!」
 マナが声を荒げシーンとなったところに、何事もなかったようにバイクが通り過ぎていく。――空しい。
 シザーハンズを探すよりも元を探した方が効果的である。人探しと言ったら、この街では情報屋を頼るのが一般的である。
「……でも、真ちゃんの情報網にあの女が引っかかるとは思えないのよねぇん」
 それにマナはこうも考えていた。――帝都でのセーフィエルの目撃談はわざと彼女が姿を現したと考えられる。自分の存在を知らせるため――それは誰に?
 マナはこの場にじっとしていても意味がないと思い、シザーハンズが現れた場所に向かうことにした。
 歩きながらマナはセーフィエルがどこで目撃されたのか、聞くのを忘れたことに気がついた。セーフィエルがわざと姿を現したとするのならば、その場所に何か手がかりがあるかもしれない。
 冷たい風が吹いた。その風に運ばれて夜の匂いがした。
「まさか……!?」
 夜色のロングドレス――いや、それは喪服のようにも見える。黒髪に黒い瞳、東洋系にも見えるがラテン系にも見える。妖艶さを身体中から放つ彼女には種族など関係ないのかもしれない。
「こんばんは、お久しぶりね――マナ」
「あらん、セーフィエルちゃんお久しぶりねぇん。――でも、まだ朝よ」
「世界が陽に包まれようと、わたくしは常に夜に存在しているのよ」
 この女性こそがファウストの不肖の弟子であり、マナの姉妹弟子であり、世界で最もマナのことを知る人物である。
 セーフィエルは空を見上げて呟いた。
「そう言えば、今宵は満月ね」
「ワザとらしく言われなくてもわかってるわ。それよりも、用事があるんだったら早く言ってくれないかしらぁん?」
 マナはセーフィエルと偶然に出逢ったのではないことは百も承知だった。
「あら、せっかく久しぶりに出逢ったのだから、もう少しおしゃべりを楽しみましょうよ」
「イヤよ」
「相も変わらずワガママなのね」
 笑みを浮かべるセーフィエル。その笑みは全て罪を許す、慈愛に満ち溢れた微笑みだった。だが、マナはその笑みを見るたびに相手の殺意をひしひしと感じる。
「それで、用事は?」
「そうね、一言で言うと、この街で魔導ショップをすることにしたの」
「……あらん、それって私への宣戦布告かしらぁん?」
「とんでもない、この街で魔導具のシェア23パーセントを握っているマナに宣戦布告だなんて。わたくしはこじんまりしたお店でお客様との触れ合いをしたいだけなのよ」
 マナは自宅の洋館で魔導ショップを営み生計を立てている。そして、企業ではなく個人でこの街の魔導具業界のシェア23パーセントを握っているとは驚異的である。普通は個人では1パーセントにも満たない。
 セーフィエルはわざとらしく手のひらを軽く叩き、思い出したフリをした。
「ああ、そういえばマナはわたくしに用があると思うのだけれど?」
「ないわよぉん」
「それは残念ね、そんなにわたくしのことがお嫌いかしら? 仕方ないから勝手にシザーハンズのことをお話するわ」
 昔からおしゃべり好きのセーフィエルはマナが何も言わないのを見て勝手に話をはじめた。
「まずはわたくしがシザーハンズをつくった経由についてお話いたしましょう。わたくしがこの街に来た理由は魔導ショップをはじめるためではないの。本来は何者かに盗まれたシザーハンズを探すため。この街で魔導ショップをはじめるのは、気まぐれよ」
「気まぐれで私に宣戦布告?」
「あら、だから宣戦布告だなんてとんでもないわ。ちょっと生活費を稼ぐためのはじめるだけのことよ」
 マナはセーフィエルをしばらく不信の眼差しで見つめてから口を開いた。
「そうことなら、シザーハンズの処理がんばってねぇん。私は全てをあなたに任せて家でゆっくりすることにするわぁん」
「あら、そんなこと言ってもいいのかしら、ファウストの言いつけを守らないとお仕置きされるわよ」
 慈愛に満ち溢れた微笑みを浮かべるセーフィエル。だが、なぜ知っているのか?
「わたしがシザーハンズを探してることも知っていたみたいだし、お師匠様との会話も知っているのかしらぁん?」
「あら、気づかなかった? わたくしの創ったあの?機械人形?を元に戻したことを――」
「……そんなこと気づいていたに決まってるじゃない!」
 マナは全く気がついていなかったのに嘘をついた。
 セーフィエルのいう?機械人形?とはマナの家でメイドをしているアリスのことだ。
 アリスは元々マナの命を狙うために創られた機械人形であり、それを創ったのがセーフィエルだった。
 一時は敵であったアリスだが、マナに改造されることにより、マナの家で働くようになった。そのアリスをセーフィエルはまた改造して自分の味方としたのだった。
 アリスが改造されたのは2日ほど前。その間マナは海外の遺跡調査に行っていた。そして、マナは昨晩遅く家に帰宅したのだ。
 ここでマナにふとした疑問が浮かぶ。セーフィエルはシザーハンズを探しに来たと言った。シザーハンズがこの街に最初に現れたのは5ヶ月も前のこと、セーフィエルほどの者であればもっと早く見つけられた筈だ。
「セーフィエルちゃんにひとつ聞きたいことがあるんだけど?」
「いいわよ、どうぞ」
「シザーハンズがこの街に最初に姿を見せたのは5ヶ月前のことで、つまりシザーハンズが盗まれたのはそれよりも前ってことになるわよね。あなたがそんなにシザーハンズを見つけるのに時間がかかるなんて私には思えないわぁん、そこんとこどうなのぉん?」
 月の光のような優しい笑みを浮かべるセーフィエル。だが、月というのは地上からでは一面しか見ることができず、月の裏側がどうなっているのかはわからない。
「あら、さすがはマナだわ。本当はシザーハンズを探しに来たのもついでなの。ここ半年わたくしはある研究をしていたのよ、だからシザーハンズを探す暇もなかった」
「その研究って何かしらぁん?」
「これよ!」
 セーフィエルの手から月光を放つバレーボールほどの大きさの玉が投げられた