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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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「窓はだいじょぶみたいですよぉ〜」
 ハルナは事態をすぐに把握して、窓から外に出られるかチェックをしたらしい。
「マナさぁ、病院行ったの?」
「まだ、だけどぉ」
「早く行った方がいいよ、?帝都病院?に」
 時雨は帝都病院というところを強調した。
 なぜ、彼が帝都病院というところを強調したかというと、帝都病院では特別な患者の診療もしているからだ。特別な患者とは普通の病院では扱っていない、魔術などの類で受けた傷などの治療や亜人の治療から、その他普通の病院では治療不可能の患者を受けつけている。
 ハルナが時雨の顔をまじまじと見つめる。
「テンチョも人のこと言えないじゃないですかぁ」
「くしゅん。忘れてた、ボクも風邪引いてたんだった」
「あらん、時雨ちゃんも風邪引いてるのぉん?」
「まぁね」
「ほら、早く二人とも病院に行ってください」
 そう言ってハルナは窓の外指を指差した。ここから出ろということであろう。ここは2階である。……しかし、そんなことはこの二人なら関係ないことだった。
「仕方ないなぁ、マナ行こ」
 軽やかに時雨が窓から飛び降りると、マナもそれに続いた――。

 時雨の自宅から帝都病院までは約20キロメートル、二人はマナの魔法で行くことにした。
「はい、時雨ちゃんあたしと手つないで」
 時雨は差し出されたしなやかで細く透き通るような白い手を掴んだ。
 マナの行うテレポートは自分以外のモノを自分と同時に移動させる場合、移動させる物体はマナの身体の一部に触れる必要があるらしい。
「それじゃあ、いくわ……くしゅん!!」
 またも、マナのくしゃみが。時雨は嫌な予感がして瞬時にマナから手を離そうとしたのだが――。
 その場からはマナと時雨の姿はどこにもなかった。つまり消えてしまった。くしゃみと同時にテレポートが発動してしまったらしい。
 2階窓から一部始終を見ていたハルナは嫌な予感がしてあるところに急いで電話をかけた。

「どこだここ?」
 時雨が発した第一声はこれだった。
 そこは見渡す限り芝、芝、芝、そしてたまに木。時雨とマナが飛んで来てしまったそこはいわゆるサバンナという場所だった。
 辺りを見回したマナはまるで他人事のように言った。
「あらん、またみたいねぇん」
「ここって帝都からどのくら離れてるんだろうねぇ」
「さぁ検討もつかないわぁん」
「はぁ……」
 時雨は重い吐息と共に気分は地の底まで沈んで行った。
「なんでいつもボクは、不幸な目に会うんだろう……はぁ」
 気分は最不調に沈んでいた彼にマナの一言が止めの一撃を刺した。
「時雨ちゃん、あれぇ〜」
 マナはある方向に指を指した。彼女の口調はのんびりとしたものだったのだが、指の先で起こっていることはそれとは正反対の出来事であった。
「あぁ、すごいねぇ〜」
 時雨の返事ものんびりとした受け答えであったが、彼の目線の先で起きている出来事は信じられない光景であった。
「こっちに来るのかしらぁん」
「たぶんねぇ、来るんじゃないかなぁ〜」
 二人の口調はほのぼのとしてしまうほどのものであったが、もう一度念を押して言うがそこで起きている出来事は凄まじいものであった。
「逃げなきゃねぇ」
 時雨のこの言葉が合図だったかのように時間が突然早送りになった。
「走るよ、マナ!」
 二人は全力疾走をした(マナは空を低空飛行していたのだが)。
「なんで、こんな目に遭うの!?」
 時雨は走りながら、後ろを振り向いた。すると何とそこには、バッファローの群れが土煙を上げながら押し寄せて来ていた。
「あらん、もうあと1、2秒遅れてたら下敷きって感じねぇん」
マナの言うとうり、バッファローの大群と二人の距離は8mほどしかなかった。
「マナ、テレポート!!」
 そう言って時雨はマナの足を掴んだ。
「それじゃ……くしゅん!!」
 またもや二人の身に不幸が襲い掛かった。

 青く澄んだ空を見上げながら、時雨は苦笑を浮かべていた。
「バファローに追いかけられるのもイヤだけど、これもイヤだね」
 二人は海の上にぷかぷか浮かぶ孤島の上にいた。島の大きさは畳10畳ほどの大きさで島の真ん中には木が一本立っていた。
「どこかしらねぇん」
「さぁ」
 島の周りには何も無い、青く輝く海がどこまでも、どこまでも果てしなく続いている。見渡す限り海、鳥すらいないのは陸地と距離が離れているからだろう。
「そろそろ、行こうか。ねぇマナ?」
 時雨がマナの方を振り向くとそこには今にもくしゃみをしそうな顔をしたマナが――。時雨は慌ててマナの口を塞ごうとしたのだが……。
「マナぁーっ!!」
「は、はくしゅん!!」
「…………」
 島の上に立っているのは変なポーズのまま固まっている時雨だけだった。そう彼はこの海の上に浮かぶ絶海の孤島に独り取り残されたのだった。
「はぁ……ウソでしょ」
 彼はコートのポケットに手を突っ込むと、パッケージングされた塩せんべえとペットボトルに入ったお茶を取り出した。
「ボク泳ぎは得意じゃないんだけどなぁ」
この発言は、彼はいつ陸に着くとも知れず海を泳いで渡るつもりなのだろうか?
「コート着たままじゃ、沈むよねぇ〜でもボクこれしか持ってないんだよなぁ」
 時雨はペットボトルの蓋を開け、塩せんべえをつまみにお茶を一口飲んだ。
「……はぁ、誰か助けに来ないかなぁ」
 しかし、時間は刻々と無情に過ぎ去っていく。そして、夜が来た。
「海風が冷たい……寒い、寒い、寒いーーーっ!!」
 時雨の叫び声は呆気なく海の波にかき消された。彼の叫びは誰にも届かないのだろうか?
 時雨は突然立ち上がり、何を思ったのか海の中に身を投じた。飛び込み方は超一流の水泳選手のようであったが、その姿は黒いロングコートであった。
 時雨は冷たい夜の海の中を泳ぐ、何処に向かうでもなく泳ぐ、そしてまた泳ぐ、しかもバタフライで泳ぐ。バタフライは実用的な泳ぎ方とは言えない、しかし、彼はこの泳ぎ方しか知らなかった。
 そして、時雨は陸地に着いた。陸地に着いたといっても元居た場所なのだが……。やはりコートを着たまま泳ぐのは無謀だった。しかもバタフライで泳ぐのは……。
「あーっ死ぬかと思った。――っ寒い!!」
 状況は悪化した。衣服が水を含み冷たい海風が時雨を襲う。
「くしゅん!!」
 どうやら風邪も悪化したようだ。
「海に飛び込むから風邪何か引くんだ」
「だってそれしか思いつかなかかったんだから……ん?」
 時雨の頭にふとある疑問が過ぎった、自分は誰と話しているのだろうか?
「やぁ時雨、助けに来たぞ」
 声の主はすぐに見つかった。声を出していたのは空中に浮かぶソフトボールくらいの大きさのカメラに取り付けられているスピーカーだった。
「真くん!? 何で真くんがいるの?」
 そうこのカメラは情報屋真の監視用カメラであった。
 真とは時雨の仕事で度々世話になっている情報屋の名前で、帝都で情報屋として1番に名前を挙げられるのは彼だった。そして、このカメラは世界各地に約時速1000kmで飛んで行くことができ、写し出した映像や音声を瞬時に真のもとへ伝えることのできる優れものだ。
「ハルナ嬢に頼まれてお前を探しに来たんだ」