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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 無数のビームから逃げる術などない。アポリオンがビームの直撃を受け、怯んだ隙にマナは相手の正面に回りこみ相手の動きを封じる呪文を唱えようとしたその瞬間。アポリオンの口元に不気味な笑みがこぼれ、それを見たマナは一瞬ためらいの表情を浮かべたがそのまま呪文を唱えよう試みた。が突然マナの身体に異変が起きた。
「私の方が速かったようだ」
 身体が動かない――。マナの身体はアポリオンの術にかかり動きを封じられ、魔力をも奪われてしまったのだった。
「くっ……」
 マナの表情が険しいものに変わっていく。
 さっきまで呆然と立ち尽くしていた時雨であったが、マナの異変に気づき我に返り剣を構え直しアポリオンに斬り込みかかった。
「そうかもう一人いたのだったな、キサマを殺すのはあいつを倒した後にしてやろう」
 アポリオンはそう言うと時雨の攻撃を備え向かえ討とうと気を集中させそれを一気に解放した。すると、大きな風がアポリオンを中心に巻き起こり、近くにいたマナがまず吹き飛ばされ壁に叩きつけられ意識を失い、時雨までもが風圧によって壁に叩きつけられ、手に持っていたビームサーベルを地面に落してしまった。
 アポリオンはすかさず凄まじいスピードで時雨の懐に入り込むと手刀で時雨の胸を下から斜めに切り裂いた。
 血しぶきが紅葉の顔を真っ赤に染める。
 時雨は相手の強烈な一撃により、身体を思うように動かなくなってしまった。
 アポリオンは口の周りにまで飛んで来た血と舌なめずりして見せた。
 その姿は下品なものには見えない、それはそれをやっている顔が紅葉のものであるからでだろう。長髪の麗人がする舌なめずりする姿からは甘美、そして妖艶な色気を醸し出してさえいる。しかし、今紅葉の身体の中身に居るのはアポリオンだった。
「なかなかの美酒だ、こんなにうまい血は初めて飲んだ。もっと、もっとくれ、キャハハハ」
 そこに立っているアポリオンはさっきまでのアポリオンとは別人にどんどんなっていく。
 顔はどんどん醜悪なものへと変貌していく、あの麗人の紅葉の顔にここまで醜悪な表情をとらせるとは、紅葉がこのことを後で知ったとしたらどんなに恐ろしいか。
「キャキャキャ、血だ、血をもっとくれ」
 この姿こそ本当のアポリオンなのだろうか?
 アポリオンの手刀が再び時雨に襲い掛かる。
「血だ、血をくれ!!」
 うつむいて壁に寄りかかって座っていた時雨の口元が動いた。
「ボク、低血圧で貧血持ちなんだよね……」
 時雨はそう言うと近くに落ちていたビームサーベルを拾い上げ、紅葉の足目掛けて斬りかかった。そしてすぐさまバランスを崩したアポリオンの肩にビームサーベルを突き刺し、そのまま背中から相手を押し倒して床に串刺しにした。
 時雨はアポリオンをビームサーベールと足で押さえながら動きを封じ立ち上がり、地面に這いつくばっているアポリオンを観ながら小さくこう呟いた。
「ごめん、紅葉の身体傷付けて」
 一様ここで紅葉に対して謝っておいたが、あとで紅葉に直接もう一度謝る気は時雨にはなかった。その後の反応が怖いからだ。時雨はこのことは黙ってようと心に堅く誓った。
「許さぬ、許さぬぞ」
 アポリオンは負傷をかえりみず、時雨のビームサーベルで自らの肩を切り裂き、蛇のように地面を這いつくばり、時雨の足を掴んだ。
「放せ、放せよ」
 時雨は足をぶんぶん振って振り払おうとした。剣を使って相手を斬ることも可能なのだが身体の持ち主の顔が時雨の頭に浮かびそれは諦めた。
 アポリオンは時雨の身体を伝って蛇のように登くる。紅葉の顔が時雨の顔の前まで来たときアポリオンは不適な笑みを浮かべこう言った。
「キサマの身体を」
 そう言ってアポリオンは突然時雨の口に自分の口を重ね合わせた。
 時雨は驚きのあまり身体の動かし方を忘れてしまった。
 紅葉の舌が時雨の口の中に入り込んでくる。このことにより時雨の頭はパニック状態に陥り、そこに拍車をかけるようにある考えが時雨の頭を過ぎった。その考えとは、このことを紅葉に知られたら殺されるどころでは済まないということだ。
 時雨は口の中にドロドロしたものが大量に流れ込んでくるのを感じた。息苦しさを感じ、思いっきりむせ返ったが液体はどんどん時雨の身体に浸透していく。
 液体が全て時雨の口の中に流れ込むと、紅葉の口は時雨の口から放され、紅葉の身体は全身の力が抜けていったように地面に倒れ込んでしまった。
 呆然と立ちすくんでいた時雨の頭の中で誰かの声が響いた。
 『キサマの身体は貰った』そう時雨の頭の中で誰かが喋ったと思った瞬間、時雨は意識を失った――。
「はははは、もうこの身体は私のものだ」
 その言葉を喋っている身体は時雨のものだった。そう時雨はアポリオンに身体を奪われてしまったのだ。
「おぉ、なんという力だ、この身体はすばらしいぞ、力が漲ってくる」
 なんということであろうか、あの帝都の天使、帝都一のトラブルシューターがやられてしまうとは誰が信じようか。
 しかし、突然アポリオンの身に異変が生じた。
「な、なんだ、身体の自由がきかん……誰だ、まだ意識が残っているのか……いや違う…うっうう……」
 なんと、アポリオンが突然苦しみだしたのだ。
「誰だ…誰だ私の邪魔をしているのは…!?……キサマか!!」
 アポリオンの声が宮殿中に響き渡り、アポリオンは膝を付き、そして倒れ込みもがき苦しみだした。
「なぜだ…なぜ…お前が!!」
 アポリオンの顔は狂気の形相を浮かべ、そして口から何かを吐き出した。それは血塊のようであったが血ではない。
 吐き出されたモノはまるで苦しむかのような動きをしている。スライムのようなゼリー状の物体――そう、これがアポリオンの本体なのだ。

 一番初めに意識を取り戻したのは時雨だった。
 時雨はゆっくりと立ち上がると、辺りを見回した。
 特に変わったものは一つもなかった。だた、あったのは床にえばり付いた”ただの”血の塊だけだった。
「…………」
 時雨は自分の身に何が起こったのか考えてみたが全くわからない。
 時雨は取りえず近くに倒れている紅葉に歩み寄り、丁重に起こした。
「……時雨?」
 紅葉の第一声はそれだった。
 紅葉も自分の身に何が起こったのかわからなかった。
 荒れ果てた宮殿を見て紅葉は時雨に聞いた。
「いったい何があった?」
「紅葉と戦った」
「それで?」
「途中で記憶が途切れた」
 時雨は首を傾げそのまま黙ってしまった。
「私を操っていたものはどうした?」
「さぁ?」
 時雨は首を傾げる一方だった。
「ちょっと、二人とも手を貸してくれないかしらぁん」
 マナは壁にもたれながら二人を呼んでいる。
「ねぇ、身体の骨が何本か逝っちゃったみたいで動けないから助けてくれなぁい」
「ボクだって、胸のところざっくり斬られて重症だよ、魔法で治せないの?」
 時雨の負わされた傷は重症のはずなのだが、時雨の口調はそれを感じさせないものだった。
「もう、魔力は全部奪われたわぁん、ねぇだから手貸してぇん」
「?なぜか?私は身体のあちこち、そして足が特にやられていて動けん」
 二人の目が同時に時雨に向けられた。