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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 マナはテーブルの上にワイングラスと赤ワインを出した。
 それを見ていた時雨は自分の持っているお茶とせんべえを見つめ、とてもひもじい気分なり、そして、マナの方を振り向きマナに夕食を食べさせてもらえないかとお願いをしてみた。
「あ、あのさぁ、ボクも夕食まだなんで、ご一緒させてもらえないかな?」
 マナは下民でも見るかのように見下した態度で時雨を見てこう言い放った。
「『マナ様、どうかディナーを食べさせてください、お願いします』は?」
 この言葉を聞いた時雨は一瞬ムッとしたのだが、自分のお腹が?ぐ〜? と正直に鳴いたのを聞いてその感情を抑え、マナに願いをこうた。
「マナ様、どうかこのとてもひもじい思いをしているボクにディナーを食べさせてください、心からお願いいたします」
 最後に時雨は必死で満面の笑みを作りニコッとマナに微笑みかけた。
「まぁ、いいわぁん、そこにお座りになってぇん」
 マナが魔法で?普通?の椅子を出すと時雨はそこに着席した。
 こうして、二人はディナーを摂ることにした。
 ――二人がメインディッシュに口をつけようとしたとき、邪悪な殺気が辺りにたち込めた。
「敵かしらぁん」
「まだ、ディナー食べてないのに」
 二人の前に姿を現したのは白銀の毛を持つ大狼だった。
「あれがバラバラ殺人の犯人かしらぁん」
「食事会は中断みたいだね。……ん?」
 時雨は何かに気づき狼の首元を指差した。
「あれ、見てよ」
「なぁに?」
 狼の首元には鍵がぶら下がっていた。
「あらん、あの?ネックレス?欲しいわぁん」
「鍵の方から歩いて来てくれたみたいだね」
「じゃあ、時雨ちゃん、食後のいい運動頑張ってきてねぇん」
「マナは?」
「食後すぐの運動って身体に悪いのよぉん」
「何か言ってる事矛盾してるよ」
「あらん。そぉお?」
 マナの言い方は明きかに惚けていた。
「ほらん、お相手がこちらに向かって来たわよぉん」
 マナの言葉の通り、狼はその牙を時雨たちに向けて来ていた。
「はぁ、食後の運動か……」
 ため息を付きながらも、狼の相手をしようとしている。そんなところに、彼らしさが出ていると言ってもいいだろう。
 時雨はコートのポケットからビームサーベルを取り出し、そのスイッチを入れた。
 すると、辺りは一瞬まばゆい光に包まれた。その光によって、狼が一瞬怯んだところに時雨の剣技が放たれる。
 地面を蹴り上げ移動し、時雨の剣が刹那の瞬間に狼に突き刺さる。
 時雨が剣を一気に抜くと同時に狼の死の咆哮が辺りにこだまする。そして、狼はぴくりとも動かなくなった。
 勝負は一瞬の呆気ないものであった。その為なのかどうか、狼を仕留めた時雨の顔はとても不服そうな顔をしていた。
「どうしたの時雨ちゃん?」
 不思議に思ったマナが時雨に問い掛けてみたが、時雨が答えを返すまでには少しの間があった。
「この狼が足に巻いてる包帯、ボクのだ……」
「えっ……どういうこと!?」
 思わず紅茶を飲もうとするマナの手が途中で止まる。
「この遺跡であった女性には巻いてあげた覚えはあるけど、狼に巻いてあげてはない」
「その女性がその狼って事?」
「かも知れない……!?」
 時雨が狼を見つめていると、その狼が突如空気に溶けてしまったかのごとく、跡形もなく姿を消してしまった。狼がいた場所に残っていたのは、包帯と鍵だけだった。
「消えた」
 時雨はそう小さく呟くと、鍵が拾い上げポケットに突っ込んだ。
「この鍵で開くといいけどなぁ」
 時雨は自分の席に戻ると深くため息をついた。
 そして、マナと時雨はティータイムを済ますと鍵を試してみることみるした。
 しかし、この状況下でのん気にティータイムをする二人の度胸の大きさといったら帝都でも三本の指に入るのではないだろうか。その三本指の中にはもちろんあの紅葉も含まれている。

 時雨はオリハルコン製扉の前に立つと、コートのポケットに手を探るように突っ込み鍵を取り出すと、鍵穴に挿し込み回してみた。すると、扉はカチャという音を立て、人の手を借りることなく左右にゆっくりと自動的に開いた。
 宮殿の中は広く質素な作りになっており、静寂に包み込まれている。
 二人は宮殿の奥へと進んで行き、そこで待ち構えていた男を見た時雨は思わず叫んだ。
「紅葉!」
 紅葉と呼ばれた男はゆっくりと時雨たちのもとへ近づいてきて、不適な笑みを浮かべながら自分の顔を指差しこう言った。
「やぁ、君らはこの男の知り合いかね?」
 この言葉に二人は戸惑いを覚えざる得なかった。
 時雨が怪訝そうな顔をして呟く。
「気配が違う」
「外は紅葉ちゃんでも中が違うみたいねぇん」
 そう、二人が感じた通り、彼は紅葉であって、紅葉ではないモノだった。
「その通りだ、私は君らの知っている男ではもうない」
 男の言葉で時雨の気配が一瞬にして冷たく鋭いものに転じた。普段の時雨からは決して想像できぬものだ。
「どういうことだ?」
「私の名はアポリオン、この宮殿の主だ」
「そのお前が何で紅葉の身体をしてるんだよ」
「私は実体を持たぬ、それゆえ器が必要なのだよ、おわかりになられたか?」
「わかった。じゃあその身体返してもらうよ」
「ふははは……」
 アポリオンは突然大声で笑い声を発して直ぐに言葉を続けた。
「それはできんな」
「何でなのぉん」
「私は実体がなければ自由に動くことさえままならぬのでな、この身体はもう少し借りておこう」
「駄目だ」
 時雨が間入れず返した。その言葉には鋭さと冷たさが混じっていた。しかし、相手はそれに動じる様子もない。
「だが、キサマらは私をこの身体から追い出す術知らぬであろう?」
「おまえを動けなくした後でゆっくり考える。――という訳でマナまかせた」
 時雨はマナの肩を軽く叩いた。
「何であたしなのぉん」
「だって、ボクには何にもできないもん」
 時雨の意見はもっともだった。時雨は肉弾戦はできても、相手の動きを封じる術やましてやアポリオンを紅葉の身体から追い出す術などまったくもって知るはずがない、ここはマナに任せるのが得策といえよう。
「しょうがないわねぇん」
 とマナが言った瞬間、彼女の手から魔弾がいきなりアポリオン目掛けて放たれた。不意打ちである。
 魔弾の直撃を受けたアポリオンはよろけて床に膝を付き、マナを凄い形相で睨み付けた。
「小娘の分際でよくも!!」
 一瞬目の前で起きた光景に唖然とさせられてしまった時雨は気を取り戻し、マナに対して罵倒を浴びせた。
「何すんだよマナ、時雨が死んだらどうすんの!」
「だってしょうがないじゃない、相手を弱らせた方が術を掛けやすいんだもの」
 それは正しい発言なのかどうか時雨は考えたが、今ここで頼れるのはマナしかいなかった。
 ゆっくりと立ち上がったアポリオンの瞳は真っ赤に燃えているようであった。アポリオンの内では憎悪の念がふつふつと湧き上がって来ている。
「不意打ちとは下卑たやり方をしてくれたな、キサマには今すぐに地獄の苦しみを味合わせてやろう」