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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 命はそう言うと指で空[クウ]に印を描いた。
 すると、印を描いた場所に丸い穴がぽっかりと開き、風を切る音を立てながら店内の物を穴の中へと吸い込んで行った。そして、人間までもすごい勢いで吸い込んでいく。
 穴に吸い込まれないように必死で抵抗する者もいたが、あえなく皆穴の中へと吸い込まれた。まさにそれはブラックホールのさながらであった。
 そんな、光景を目の当たりにしながら時雨は命に聞いた。
「ねぇ、これって神隠しってやつ?」
「まぁ、そんなところじゃ」
「あのさぁ、吸い込まれた人たちはどこに行っちゃったの?」
「わからん」
「わからんじゃないでしょ」
『わからん』それはつまり、本当の神隠しとさして変わらないということなのだろうか?
「急いでおったのでの、そこまで手が回らんかった。まぁここよりは安全じゃろ」
「確かに……いや、そうなのか?」
 平然と答える命の言葉に首を傾げる時雨であったが、今はそんなことを考えている暇などなかった。
 悪魔を乗せた狼が咆哮を上げ、悪魔は手に持った剣を一振りした。すると、もの凄い風が店内に吹き荒れた。竜巻だ、悪魔は剣を一振りしただけで竜巻を起こしたのだ。
 竜巻は店内を滅茶苦茶にし、店を覆うガラスの壁は凄い音を立てて粉々に砕け、強風が店内を吹き荒れた。
 時雨は身を屈め強風に耐えている。命とマナは法力により風の影響を全く受けていない。
「……ずるい」
 ガン! 時雨の後頭部に何かが当たった。
「いてぇ〜」
「だいじょぶか、時雨?」
「ボクにもその術かけてくんない?」
 命は右手の人差し指と中指で時雨のおでこを強く押した。
「渇! これでだいじょぶじゃ」
「はぁ、それじゃあ行きますか」
 そう言って時雨は悪魔に斬り込んで行った。
 時雨のビームサーベルは地面を擦りながら半円を描き上へと斬り上げられた。その太刀を悪魔は剣で受け止める。
 舞を踊るかのように軽くジャンプ回転しながら剣を横に振る時雨に対し、悪魔は剛剣でそれを軽く受け止めた。
「我、全テヲ滅スル者ナリ」
 悪魔は時雨目掛けて剣を叩き落す。
 それはどうにか受け止められたものの時雨の顔には焦りの色が見える。そして、目線を命の方へとやった。
「見てないで助けてよ」
「わらわはこやつ相手で手がいっぱいじゃ」
 そう言う命はマナと交戦中であった。
 お嬢様笑いを高らかに上げるマナの手には新しい大鎌がしっかりと握られている。
「おほほほ、なかなかやるわねぇん」
「あたりまえじゃ、お主にわらわが負ける訳なかろう」
「言ってくれるじゃな〜い」
 マナは大鎌をブンブン振り回しながら命に襲い掛かる。
 命は手に握られた護身刀でそれに応戦する。
 そんな光景を見ながらぼそりと呟く時雨。
「あっちはあっちで大変そうだなぁ」
 時雨が悪魔から目線を外した瞬間を突いて悪魔が攻撃をしかけてきた。
 自分目掛けて振り下ろされた剣をビームサーベルで受け止めると、悪魔はさらに剣で時雨の身体を押してきた。
 地面に足を取られ体制を崩してしまった時雨に悪魔の全力を込めたの大剣が襲いかかる。
 危機一髪、時雨はそれを顔面すれすれのところで相手の剣をビームサーベルで弾き返した。
「危ない、あんなの喰らったら肉片になっちゃうよ、ふぅ」
 額の汗を拭く時雨は顔では笑顔を作っていたが、相手の渾身の一撃を防いだビームサーベルを持った右腕はだらんと地面に立て下がっていた。そう、相手の攻撃を防いだ右腕の骨は粉々に砕けてしまったのだ。
「ちょっと、タイムとかはないよね……?」
 悪魔は時雨の都合などお構いなしといった感じで攻め込んできた。
「はぁ、やっぱし。仕方ないから逃げちゃお」
 そう言うと時雨は全力疾走でとんずらをしようとした。
 それを見た命が叫ぶ。
「待たんか、わらわを残して逃げる気か!」
「そんなわけないじゃない、あはは」
 時雨の顔には確実に同様の色が出ていた。
「……まぁそうじゃな、エレベーターが壊れていては逃げる事もできんか」
「なんですとーっ!!」
 時雨は絶句した。確かに部屋の中央にあるエレベーターはドアが閉まった開いたりそれを繰り返していた。
 悪魔の影が時雨に忍び寄る。
「今年最初の大ピンチって感じだなぁ」
 時雨は今になって、あの時した紅葉との約束を後悔した。
 
 それは先月中旬ごろの金曜日の夜のことであった――。
 帝都の天使は本当に困っているのだか疑わしい表情をしながら目を閉じ少し考えたあと、その艶やかな唇を動かした。
「わかった、取り引きをしよう」
「取り引き?」
「その魔導書を紅葉にやる代わりに仕事手伝ってよ」
「よかろう、しかし、その魔導書はどうやって手に入れるつもりだ?」
「彼女のことだから、その魔導書をパクってくると思うし、彼女1回読んだらすぐに覚えちゃうから、そしたら、君にやるよ」
「契約成立だ。それでは時雨、一緒に狩りを始めよう」
 その言葉を聞いた時雨は不適な微笑み浮かべ空を見上げた。

 ――過去の回想に浸った時雨は苦笑を漏らす。
「……あの仕事よりよっぽどこっちの方が大変だよ」
 時雨はうつむき加減で愚痴をぶつぶつと呟いた。
「時雨ぃ、前を見ぃ!」
 命のの罵声が時雨に浴びせられた。
「えっ!?」
 前を見るとそこには巨大な狼に乗った悪魔がすごい勢いでこちらに向かって来ているではないか。
「……もうヤダ」
 これは時雨の心からの本音であったに違いない。
 とりあえず時雨は、悪魔から逃げながら作戦を練ることにした。
 一方、命とマナの戦いは佳境に入りつつあり、その壮絶さを増していた。
 命はマナの攻撃を反撃せずに全て避けていた。
「さっきから大鎌をぶんぶん振り回しおって、当たったらどうするのじゃ!」
「当たったら当たったでその時はその時じゃなーい」
「仕方ないのぉ」
 命はそう言うと紙の札を一枚出し、指で印を書きそれに込めた。
「動きを封じさせてもらうぞよ、悪く思うでない」
 命は紙のお札をマナ目掛けて投げつけた。
 札はマナ目掛けて一直線に飛んでいく。
「おほほほ、同じ手は二度もくらわないわよぉん」
 マナの身体は札に当たる寸前に左右に分身した。マナの使う魔術はなんでもアリのようだ。
 札は二人のマナの間を風を切りながら通り抜けていく。
「おほほほ、そんなノロい札なんてあたしには当たらないわよぉん」
「ふむ、幻術の一種か。じゃがのぉ、その札は追尾ができるで逃げても逃げても追ってくるのじゃ」
「……!?」
 マナが慌てて後ろを振り向くと札が目の先まで迫っていた。
「……気づくのが遅かった」
 マナの肩がガクンと落ちた。おでこにはゆらゆらと札が揺らめいている。
「そこでじっとして居れ」
「してやられたわぁん」
 命が時雨の元へ駆け寄る。
「時雨だいじょぶか」
「だいじょぶそうに見える?」
「死んではないようじゃな」
「そーゆー問題じゃないでしょ。それよりあれなんとかしてよ」
 二人の目線の先には巨大な狼にまたがった悪魔が時雨を追っかけて来ていた。
「仕方ないのぉ、式紙でも呼び出してみるとするか」
 命が空[クウ]に印を描く。
「汝は全てを呑込み無に還す者なり、”招”!」