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古代湖の底から

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 一滴ずつの飛沫(しぶき)が夕陽を吸い込み、その集合体が視界のすべてを紅く染め上げた。言ってみれば、この世のものと思われぬ美しさが現実の世界に現出したのだ。
 だが、それは一瞬の出来事だった。高く立ち上がった飛沫は、湖面を渡り来る風にサーと持って行かれたのだ。
 それから10分も置かない内に、渦は徐々に小さくなり、やがて消えて行った。
 この意味するところは水深100メートルにある地下水道の入り口に、凸の上下を引っ繰り返した形の無人円盤機が、実に正確に蓋をしたと言っても間違いない。

「ああ、これで、京都や大阪の人たちを水不足で悩まさず、これからも古代湖、琵琶湖はいつまでもそのままで、宝の湖で存在し続けて行くのね。良かったわ」
 哀歌は胸をなで下ろし、恋慕と手を取り合って喜ぶ。
 そして今までのすべてを見ていた愛犬のナポレオンが大きな耳を揺らせ、ウーワンと喜びに一声吠える。
 これが切っ掛けとなったのか、キャプテンは「お二人さんがイッチョカミ星人の末裔と判明した以上、『地球、いただいちゃいます作戦』は破棄する。地球に永遠の平和を!」と宣言し、2000年待ち望んだ出発指令を発す。
「時空貫通開始! まずは1、000光年先のイッチョカミ星を目指せ。そこで嫁取りのご挨拶をして、それから1、400光年先のヨロシオマッ星を目指すことにする。いざ、古代湖の底からの旅立ちだ!」
 相も変わらずにガーンガーンとドラが鳴る。しかし今度は、それをかき消すゴーという推進音を発し、円盤機はフルパワーで時空を貫通し始めた。それはまるでくるくると巻かれた帯のA端からB端へ、厚み方向に貫くようにだ。
 窓から外を眺めれば、煌めく星たちがあっと言う間に後方へと走り消え去って行く。

 これはミラクルではない。宇宙のリアルだ。
 そして、この光景を眺めながら、作家の恋慕が娘に、いつになくしみじみと……。
「この旅を終えたら、私、やっぱり京都に戻ろうかな。ミステリー小説『古代湖の底から』ってのを書いてみたいの。哀歌は妻として、坊やにいつもイッチョカミして――、幸せつかむんえ」

これに哀歌はボーヤと手を取り合って、新妻らしく溌剌と一声発するのだった。
「ヨロシオマッ星!」


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊