古代湖の底から
この様子をじっと窺っていたキャプテン、伊調神親子の動揺を抑えるためか、まあまあまあと目の前で手の平を上下さす。
「実はここからが本番でして、窓の外を見てください。20機ほどの空飛ぶ円盤が宇宙空間で、いわゆる地球に対しホバリングしてるでしょ」
こう促された恋慕と哀歌、ダイヤモンド組成で作られた空望鏡(くうぼうきょう)を覗き込む。すると確かに、色とりどりのメタリックに輝くフライング・ソーサーがウジャウジャといるではないか。
「あらら、ダメじゃないの。戦争でも始めるつもりなの?」
哀歌が振り返り、キャプテン、コーワイに詰問する。
「いえ、違いますよ。今回地球を離脱するにあたって、いろいろな星人と連絡を取り合ったのですが。そこでわかったことは、2000年前に戦闘状態にあった七色トカゲ座のイッチョカミ星人と今は友好関係にありまして、琵琶湖をなんとか現状変更せず、白鳥座に戻りたいと申し出ますと、協力しようと言ってくれました」
この美談と思われる話しに、恋慕も哀歌も引き込まれ、「へえ、もう戦争は終わっていたのね、良かったじゃないの。で、具体的には、どんなお助けがあるの」と母娘は真剣な眼差しで顔を突き出した。
これに、しばらく沈黙を保っていたボーヤが、いよいよ話しの展開が本筋に入ってきたと感じ取ったのか、横槍を入れる。
「あそこに一升瓶の蓋のような空飛ぶ円盤があるでしょ。あれは無人で、永久に破壊されない高価な機体でして、あれを琵琶湖の底へと沈め、我々の円盤に代わって、地下水道の口にカポッと蓋をしようという作戦なんですよ」
ここでボーヤは一拍の間を取って、二人が話しの展開について来れてるのかを確認し、「これが連中、イッチョカミ星人の、格好良く言えば――、義を見てせざるは勇無きなり、なんですが……」とあとの言葉を濁し、表情が険しくなる。それから大きく一息吸い込み、二人に尋ねる。
「なぜ彼らがここまでしてくれるか、わかりますか?」
これは母と娘にとってはあまりにも出し抜けな質問だ。
しかし、その裏に、何か自分たちに話しづらいことがあるのではと感じ、どう答えてよいものかわからない。ただ二人は小首を傾げるしかなかったのだ。
場の雰囲気がどことなく硬直する。このままこの状況を引きずれば、これからの宇宙の旅に痼(しこ)りが残りそう。
こう察したキャプテン、ここはボーヤの問いをカバーし、ヨロシオマッ星人の代表として、真実を明かす時だと考えた。そして低い声で、言葉一つ一つを選びながら語る。
「伊調神恋慕さん、そして伊調神哀歌さん、最近我々もそれを知ることになったのですが、いいですか、その苗字に名残があるように、あなた方は――イッチョカミ星人の末裔なんですよ。2000年前、私たちの円盤を追い掛け、操作を誤って、琵琶湖のほとりに墜落したイッチョカミ戦士がいました。実はその方があなた方の祖先なのです。あなた方はイッチョカミ星人のDNAをしっかり引き継いでいるのですよ。正直に申し上げます。あなた方は何にでも、顔を突っ込む性分でしょ。それが証拠であり、列記とした遺伝です」
あ〜あ、話しがあまりにも突飛過ぎるじゃありませんか。