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古代湖の底から

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 まことに順調なテイクオフ。しかし、天へと上昇して行く空飛ぶ円盤から眼下を眺めると――、アッ、アッ、アー!
 びっくらこく事態が湖に……。
「あれ見て! 大きな渦を巻いてるわ」
 湖面に目を落とした哀歌は色を失い、あとの言葉が続かない。

 しかし、こうなることはヨロシオマッ星人にとっては想定内のこと。特にびっくりすることではない。
 つまり円盤機を琵琶湖の底から10機のヘリコプターで引き離し、浮上させた。ということは風呂の栓を抜いたようなもの。
 その結果、当然湖底から日本海へと繋がってる地下水道を通って水が流れ始めた。言い換えれば、底が抜けたということだ。
 この事態は初め湖上からは目視できない。しかし、時間が経過し、ボーヤたちの円盤機が空へと舞い上がる頃になって、渦巻きという現象で確認できるようになった。
 さらに振り返れば、今の形の琵琶湖になる前、ここに小さな湖が存在していた。それは現存する余呉湖のように、流入する川はあったが、流出する川はなかった。
 つまり、その水位は地下水道を通って敦賀湾へと流れることにより水位のバランスを保っていた。
そして今、これと同じ状態へと復古しつつあると言えるだろう。突き詰めれば、現在の琵琶湖の水位は大幅に低下することは自明の理。

「そうなんだよなあ、こうなることはもちろん予知していたが、我々が白鳥座に戻るためには、致し方ないことだったんだよなあ」
 作戦責任者のアンチーヤンが頭を掻きながら恋慕と哀歌に説明した。しかし、これに哀歌の顔がどんよりと曇る。
「琵琶湖は京都や大阪の人たちの水瓶よ。このまま円盤が湖底から離れ、宇宙の彼方へと飛んで行くということは、みんなの飲み水がなくなってしまうってことよね。これ、罪でしょ」
 確かに湖岸に目を懲らしてみると、水位が徐々に低下し、水際が引き始めている。されどもこれは計画の範囲内のこと。
「もしこのまま2週間も続けば、完全に水が抜け、現在の水深は104メートル、そして湖面の標高は86メートルだから、104引く86で、水深がたった18メートルの小さな湖が残るだけになるんだよ」
 アンチーヤンが数字を並べ、タラタラと説明する。そこへ作家業の恋慕が食い付く。
「えっ、これって、琵琶湖最大のミステリー、葛篭尾崎(つづらおさき)の水深70メートルの湖底遺跡が地上に現れるってことね。ああ、興味が湧いてきたわ」
 さすが流行作家、琵琶湖が干上がる件についてはまるで他人事だが、小説のネタになりそうな出来事には貪欲だ。

 それでもこの後、しばらく考えを巡らせたのか、「琵琶湖がなくなってしまうって……、ちょっとアンタ、何とかしなさいよ」と、どうもオバチャンの心境は複雑に変化するもので、地球は守られるべきとなって行ったようだ。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊