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古代湖の底から

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 琵琶湖には大型のサルベージ船がない。そこで湖底に眠る空飛ぶ円盤に網を掛け、ヘリコプターで引っ張り上げる、こんなとんでもない方法を哀歌が考え付いた。
 それにしてもアイデアだけで終わらせず、実行に移すところが、人間のメスといえども凄いヤツだ。
 ボーヤも哀歌が乗船するリーダー船に同船し、我がフィアンセの実行力は侮れないぞと――、ちょっと敬服。いや、最近タジタジなのだ。
 そしてこんな場面で、なぜか突然に、そう言えば、与謝野鉄幹という詩人がいたよなと思い出す。そして、『妻をめとらば才たけて みめうるわしく情(なさけ)ある、……』と地球学習で大脳皮質に定着してしまったポエムが口を突いて出てくる。
 この現実を分析すれば、哀歌に情けがあるかどうかは未確認だが、才たけてることだけは確か。ボーヤは「あっそっかー!」と確信する。

 されども将来自分たちがどんな夫婦になるのか予測できない。それでも、我妻となってくれることが、そこはかとなく嬉しい。
「ヨッシャー! この空空漠漠(くうくうばくばく)たる宇宙で、哀歌と力合わせ、生きて行くぞ!」
 ボーヤが湖に向かって、あらためて一念発起の決意を叫ぶと、これが合図になったかどうかはわからないが、とにかく広げられた網がザバザバザバッと湖底へと沈んで行った。
「坊や、アホな大声出してないで、さっさと潜水艇で潜って、網を円盤機にしっかりと被せてきてちょうだい」
 行く行くは女房となる人間のメスから、初の指令が飛ぶ。
 おい、エイリアンの扱いが荒いじゃないか、と反発しようとしたが、ここはヨロシオマッ星人の深慮遠謀、『地球、いただいちゃいます作戦』の第一歩だ。ミッション遂行のため辛抱しなければならない。
「マイ・ハニー、合点承知の助だよ」
 ボーヤは元気よく返し、潜水艇に飛び乗った。あとは慣れたもの、湖底へと急降下。
 するとそこには小型サブマリンが、つまりアーネゴとアンチーヤンが待っていてくれた。

 この加勢により円盤機への網掛けは順調に終了し、ボーヤは哀歌が待つクルーザー船へと戻る。
「ネット掛け、完了!」
 ボーヤが哀歌に報告すると、「おおきにエ」と柔らかく微笑む。
 やっぱりこの語尾の『エ』に滅法弱いボーヤ、「イッツ・マイ・プレジャー」と頬がユルユルに。
 一方哀歌は、すべて順調と自信を持ったのだろう、白魚のような細い指をツーンと伸ばして、無線マイクをセクシーに摘まみ取る。
「上空の各機に告ぐ。網の引き上げをなされよ!」
 1オクターブ高い発声で指示を伝達した哀歌、あとはプツリとマイクのスイッチを切り、「さあ、私たちのハネムーンが始まるわよ」と、ボーヤにハイタッチ。
 ペチャ!
 ボーヤの指と指の間には若干水掻きが残ってる。そのせいか、どうも音が籠もるようだ。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊