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古代湖の底から

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 2000年の眠りから醒めた高等生物、そのオスが空(くう)に向かって一声発したようだ。
 その後、こいつは微動だにせず3分の経過を待つ。なぜなら血液が淀みなく体内を流れていることを確認しなければならないから。
 そしてそのプロセスも終わり、やっと起き上がることへの自信が持てたのか、「おい、お前たちも起きろよ」と他のカプセルに呼び掛ける。
 あとは少しやつれた表情で、口癖なのか「よっこらせ」と一つ吐き、ひしゃげた蒲鉾形状の容器上部から這い出てきた。
 さらにこれも癖なのだろう、さっそく首を左右に揺らす。
ゴキゴキゴキ。
 この快音は2000年ぶりだ。

 しかれども、長年の低温保存によりあらゆる細胞の活動を止めていた本人にとっては、まだまだ心配だ。それを払拭するためか、自分の頬をパシン、パシンと叩く。
 これで気合いを入れ直し、カプセル内でまだ横たわる3匹の生物に向かって、「お前たち、身体に異常はないか?」と問い掛ける。
 すると意外に元気よく、「キャプテン、おはようございます。心地よい目覚めです」とハキハキと返ってきた。
 そう、最初に声を掛けたのはキャプテン。そして返答した者たちはキャプテンより年若い、いわゆる隊員たちだ。
 それでも三者三樣に、いかにも2000年の眠り疲れが尾を引いているかのように、「ヨイショ」、「ドッコイショ」、「ヨッコラセ」と漏らし、カプセルから抜け出してきた。
 とは言うものの、兎に角ラッキーだ。全員がここに蘇ったのだから。
 そしてこの無事がよほど嬉しいのか、キャプテンはニコニコと笑いながら堅く握手をしてまわる。

 このちょっと熱血漢のキャプテン、名はコーワイと言う。
 名前の割には隊員思いで、優しい。なぜなら共に戦い、そして2000年の時を超え、みんな生き延びてきた同志だからだ。
 この経緯を共有し、互いに信頼し合ってるのか、乗組員の中では一番若輩のボーヤという生物が口を開く。
「皆さん、ぜんぜんお変わりありませんね。眠ってしまえば、20世紀もあっと言う間、だけど心地よい目覚めで良かったですよね」
 自我を何事もなく取り戻せたことに、余程感激しているのだろう、屈託のない笑みが零れる。

「あら、ボーヤ、この水隠れの術、初めてだったの。いい経験したことだわ」
 ベテランパイロットのアーネゴはこの純情無垢な乗務員、ボーヤが余程可愛いのか、その裏返しのちょっとした悪戯で、青二才のホッペを指でペンと叩く。ボーヤにとってこんなことされるのは2000年ぶりだ。
 いや、その時間は眠り、止まっていたも同然。だからそれはついこの間もきっちりとやられているから慣れている。ボーヤはいつもの調子でニコッと笑い返すだけだった。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊