古代湖の底から
もし闇に音があるならば、それはどんなサウンドだろうか?
闇には光がない。そして静寂。これが一般的な理解だ。
そこに音が存在するなんて、理屈に合わない。
だが、シ――ン、――、シ――ン。
確かに聞き取れる。
そんな暗闇に、突然カチカチカチと異質な音が響く。オートマティックに電源オンされたからだ。
あとは瞬時に、ピカピカピカッ、パッ、パッ、パッ!
マイナス3℃に冷え切った暗闇に灯りが点いた。
それとほぼ同時に、沈黙し続けてきた超高速コンピューター・シグマがキーンと本格稼働音を発する。
これは多分この空間の蘇生開始の合図なのだろう。
いや、その通りだ。その証拠に、ありとあらゆる機器が順繰りに動き始める。
もちろんこの中には室内空調設備も含まれ、直ちに温度は23℃、湿度は35%、そこへ向かって稼働開始。
こんな事態の変化は、ある意味、やっとこの時が来た、その結果だと言ってよい。
すなわち2000年の歳月を経て、ずっと仮死状態だった闇空間が息を吹き返したのだ。
そして、その蘇生開始から48時間を掛け、高等生物が生存できる基本環境をゆっくりと整えて行った。
まさに今、その最終確認だ。
このための検査知能ロボットが忙しく動き回っている。目的は、この空間がウィルスによって支配されていないか、また放射能レベルに異常はないか、等々、生物に対する危険因子情報を収集し、マスター・コンピューターへ送ること。
そしてこの情報は生命防衛ソフトにより即刻解析処理され、40秒後には電光掲示板に、その最終判断がディスプレーされる仕組みとなっている。
その結果が表示された。幸いにも『No abnormalities / Viable !』と。
これで、空間すべてに異常はなく、生物は生存可能だと見極めがついた。
この結果を受け、フロアーに並ぶ四つのカプセルがジーと滑らかな音を発し始め、やがてカチンという最終音で締め括られた。
つまり蓋は全開したということだ。そして中から野太い声で「グッドモーニング」と放たれてきた。