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古代湖の底から

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 ここまでくると、横にいた哀歌はボーヤの下心をどことなく察する。きっとこのエイリアンは何らかの使命を受けているのだろうと。
ならば私がボーヤのためにイッチョ噛んでやろう。こんな慈善的な正義感により、まずは思い付いたところを提案する。
「戸籍を得るために、誰かを殺して、坊やがその男に成り代わるってのは、どう?」
なるほど、その手があるかと気付かされたボーヤ、しかし平和を愛するヨロシオマッ星人、「うん、それはちょっとね」と二の足を踏んでしまう。
こんなやり取りをじっと観察していた母の恋慕が絞り出す。
「残念だわ、ちょっと時機が遅かったね。うちのダンナが亡くなった時なら、成り代わってもらえたのに」と。
「だったら私すぐに結婚し、連れ合いを毒殺して、坊やに成り代わってもらうっての、どうお? もちろん戸籍取り上げてね」
 ボーヤは、ギョッ!

 それにつけても哀歌はシャーシャーと、恐ろしいことを言うものだ。ボーヤの背筋にブルブルッと冷たいものが走る。それを見て取ってか、哀歌が粘り気のない声で吐く。
「坊や、これって小説の筋書き、だってば」
 母はこれに被せて、「もちろん、そうよ」と。
 たとえ、いつもケンカしている妄想親子であっても、最後の結論はピッタリと合わせてくるという匠(たくみ)のファミリー。これで一件落着。あとは三人顔を合わせて大笑いするしかなかった。
 気怠(けだる)い昼下がりの、アフタヌーン・ティーでの話題は、五十路女の婚約破棄に成り代わり殺人事件、ぞくぞくとするミステリーものだ。それでも、もし誰かがこの様子を窓の外から覗いてみれば、和気靄靄(わきあいあい)の家族団らんだと思うだろう。
 こうして時は過ぎ、ボーヤは平和的に二日目の夜を迎えることができた。
 されどもキャプテンたちに本日の見聞を報告しなければならない。そして宇宙ネットを開く。


キャプテン、アンチーヤン、アーネゴさんへ
 本日、作家を生業とする恋慕というメスの家に連れて行かれました。そこには別れたダンナとの間に生まれた若いメス、哀歌が同居しています。
 しかし不思議なんですよね、人間のメスって。
 湖で拾ってきたエイリアンの男であっても、若くて身長がそこそこさえあれば、たとえ母と娘の間柄であっても取り合いをするんですよ。
 ホント、節操がなくって驚きです。
 その上、私が人間の戸籍が欲しいと申し出ますと、誰かを殺して、そいつに成り済ましたらいいよってね、まことに野蛮な連中です。

 だけど、二匹とも結構親切で、割にこの家、居心地が良くって、しばらくここに居候することに致しました。
 もちろん目的は、地球探索秘密基地として使うことなのですが……。
 さてさて、どうなって行くことやら、乞うご期待を。
 じゃあ、またこの顛末をご報告致します。
                              ボーヤより



作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊