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古代湖の底から

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 流行作家はいつもネタ不足。ここは四の五の言わず生活のため、恋慕はプライドを捨て、ボーヤに手を合わせる。こうなれば、ボーヤも悪い気がしない。
「事実は小説よりも奇なり、ヨロシオマッ星!」
 思わず人間界のことわざと、白鳥座のソルジャーの雄叫びを噛まし合わせてしまった。
 これを受けて、娘の哀歌は「あっらー、坊やは協力的で……、カチコイのね」と親指を押っ立てる。

 だがすぐに指を折りたたみ、哀歌は眉間に皺を寄せて……。
「この物語って、お母さんが琵琶湖でエイリアンのオスを拾ってきた。ここまではわかるわ。だけど、その後のストーリーって、お母さんはこのオスとやっぱり結婚する、ってことなの?」
 ここに、しばらく三人の冷え切った沈黙、いや、沈思黙考が。
 それからだ、いきなり声のトーンを上げて、人間の若いメスの絶叫が響き渡る。
「チョー面白い!」
 これに母はただただ照れ笑い。

 しかし、さすが作家さんだ、しっかりしている。
「だからよ、次作品として書いてみたいの。お願い、坊や、もっとネタをちょうだい」とそのプロ意識は半端じゃないし、貪欲だ。
 これにボーヤがスッパリと返す。
「これからのネタは、私たち三人で作って行くことになるでしょうね」
 まったくその通りだ、と思ったかどうかはわからないが、哀歌が悪戯っぽい目をして、「へえ、私も物語の中に登場するのね。私たち二人と宇宙生物一匹がどういう結末になって行くのか楽しみ、っていうか、今の母とのブライダル路線の変更もあるってことよね」と見つめてくる。
 ボーヤにとって哀歌は未開人、だがその小悪魔的な視線が色っぽくて、これから三人の物語作りのための要望をついつい発してしまう。
「恋慕先生、僭越(せんえつ)ながら申し上げます。妄想だらけの作家さまとの結婚はね、ちょっと遠慮させてください。重ねて、先生の新作を応援するために、二つのお願いがあります。まず一つはここに居候させてください」
 ふんふんと頷いていた恋慕、「婚約を破棄して、居候の身に格落ちしたいのね。どちらもいいわよ」と案外聞き分けの良いオバチャンかも知れない。
 だけどいつの間に、婚約とは。地球の熟年女流作家って妄想が半端じゃない。もう空想の果てのおとぎ話だ。

 だけどボーヤはここで留まってるわけには行かない。
「もう一つのリクエストは、人間界で自由闊達に行動したいため、人間の戸籍、それを手に入れたいのですが」
 ボーヤのこの要求、まことに突飛な話しだ。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊