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古代湖の底から

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 しかし恋慕は実に冷静に、「さあ、リビングで寛(くつろ)ぎましょう」とボーヤの手を取った。
 これはひょっとすると、まだまだ一つの物語の序章なのかも知れない。だったら、もう少し先へと進まないと全体のストーリーが見えてこないんだろうなあ、と覚悟し直したボーヤ、招き入れられるままリビングへ。それからボーヤは恋慕と哀歌を前にしてソファーに座る。
 この緊張をスウィーツと紅茶、上流階級の文化だと言われるアフタヌーン・ティーなるものでほぐさせてくれた。
 その甲斐あって、どことなくゆったり気分に。それを見計らってか、恋慕が口火を切る。
「あなたのご出身は、どこ?」

 これを皮切りとして、母と娘から質問が交互に飛んでくる。まっ、言ってみれば事情聴取のようなものだ。
 目的は、もちろん好奇心で拾ってきた男について、根掘り葉掘りと調べ上げること。
 これに対しボーヤはボーヤで、なにも隠すことはない。人間のメスたちに真摯に向き合い、自分は白鳥座のヨロシオマッ星人であることの紹介から始まり、ここに至ったすべてを語る。

 その大まかな内容とは……。
 今から2000年前、宇宙戦争が勃発した。ユニバース平和同盟の加盟星の一つがヨロシオマッ星。
 その戦いにおいて、時空貫通円盤機に乗る四人の戦闘員は、七色トカゲ座のイッチョカミ星人と月の裏側辺りで激しく交戦した。
 しかし、残念ながら多勢に無勢。撤退の羽目となる。
 その挙げ句の果てに、この地球の上空まで追われ、四人は水隠れの術で小さな湖の底に隠れた。
 その隠遁(いんとん)地点として、湖底から海へと流れる地下水道の入り口、そこを選んだ。
 目論見は言うまでもなく、円盤機で栓をし、水位を上昇させ、より身の安全を確保するためだった。
 それから目覚まし時計を2000年後にセットし、眠りに入った。

時は流れ、今回クルー四人は無事に目覚めた。
 その後、ボーヤが地上調査員に指名され、水底から小型潜水艇に乗って這い出てきたのだ。
 その湖こそ淡海、あの美しい琵琶湖であり、その湖岸でミステリー女流作家に拾われた、ってことになる。

 恋慕も哀歌もボーヤが語ったこんな物語が面白いのか、目を丸くして聞き入った。そして話しが一通り終わると、哀歌は手際よくボーヤと母のカップに紅茶を注ぐ。
「お母さん、妄想にしては出来すぎだわ。これ、小説のネタに頂いたら」
 恋慕はゆっくりとカップを持ち上げ、香り嗅ぐ。それから意を決したのか、「そうね、もらっちゃって……、いいかしら? いえ、頂きたいわ、坊や」と。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊