古代湖の底から
「えっ、俺はやっぱり拾われたのか」
ヨロシオマッ星人のボーヤの常識では、拾うとは、お金を拾う、恋とか命とかを拾う、とまでは理解できるが、男を拾うという概念はない。
「ああ、俺は未開の人間のオバチャンに拾われたのか」
宇宙人のボーヤはプライドを傷つけられ、肩をドスンと落してしまう。しかし、こんな事態に陥っているにも関わらず、容赦ない質問が哀歌から続く。
「じゃあ、なんでお母さんは……、お持ち帰りしたの?」
「あれれれ!」
ボーヤは目を丸くし、「お持ち帰りって、テイクアウトにツーゴー、果てはドギーバッグが同義語だよな。て、ことは、俺はナポレオンの餌のために、ドギーバッグされたのか」と、もう立ち直れないほど傷つけられた。
そして娘はこの様子を目を細め、ボーヤをまるで見下すように眺めているだけ。
されども、お持ち帰りの理由が母にはドギーバッグ以外にあるはずだ。そのボーヤの勘は見事に的中する。
なぜお持ち帰りしたの? という本質を突く哀歌の質問に、恋慕が胸張って、一言宣われたのだ。
「お婿さんに」
えっ、えっ、ちょっと聞き取りにくかった。しかし娘の哀歌は聞き逃さなかった。
「お母さん、この人、拾ってきた割にはナイスガイのようだけど……、私、まだ独身でいたいわよ」
哀歌は少しくぐもりながらも言い放った。そしてあとはモジモジと。それからポーと頬を染めて、「だけど、ちょっとお付き合い……、してみてもよいかもよ」と。
されどもここで型破りな展開が。恋慕は娘の乙女心を完全に黙殺する。
「哀歌じゃないわよ、私のお婿さんに、ってことよ」
なんという情欲の発露か。当然娘はこの母の発言に唖然。
一方、当の本人のボーヤはスワン口をポカーンと開き、乳歯のような可愛い歯を見せる。そして、そうであっても脳内ではおののいた言葉が走る。
「俺は五十路を越えた人間のオバチャンに、一度はツバメ候補とされ、今度は格上げされて、婿にされるっちゅうんかい? いやはや、メッチャクチャ悪い予感がするぜ。これは宇宙人の第八感、人間界の母と娘、そしてヨロシオマッ星人の俺との三角関係、愛憎ドロドロ地獄に落ちるような気がするよ。コッワー!」
まさにパニック寸前のボーヤ。