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古代湖の底から

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「さっ、坊や、我が家に着いたわよ」
 エンジンを止め、恋慕はさっさと降りる。それに合わせるようにボーヤも降車。振り返ると、木々が覆い茂った大きな前庭がある。 
 2000年前、イッチョカミ星人に追われ、湖へと降下するフライング・ソーサーが映像としてとらえた湖畔の集落、その暮らしは原始的で実に貧しそうだった。それに比べこの家はなんと裕福なのだろうか、まったくの驚きだ。
 ということは、2000年で人類の生活は豊かになり、この住まいは現代における人間社会の平均的なレベル、てなところだろうか。
 いや、違う。ここに到着するまでの道すがら、ボーヤは観察してきた。恋慕の家は極上で、余程収入を得ている結果だろうと判断できる。

 ボーヤはこんな推理を巡らせながら主(あるじ)に先導されて広い玄関を進んで行く。すると恋慕がいきなり奥に向かって「ただいま」と声を上げる。
 うん、確かに言われてみれば、ただ今。
 これって、ここにいます、ってことかと感心していると、恋慕が「よっこらせ」と無意識のままに言葉をひねり出し靴を脱ぐ。
「よっこらせ? これって、キャプテンの口癖だよな。ということは、よっこらせは宇宙共通用語ってこと?」
 ボーヤが首を傾げてると、奥から髪はバサバサで、黒縁の眼鏡をズルッとずり下げた若いメスが「お母さん、お帰りなさい」と現れ出てきた。

 さらによく見るとダボダボの白い綿シャツに、膝小僧の部位が破れたジーンズ。以上からして、人間の若いオナゴはこんなにもダラリンとしているのかと、ちょっと幻滅。
そして、このレディーがお母さんと呼ぶ以上、別荘での晩餐時に恋慕が語っていた娘の哀歌なのだろう。
 だけれども漢字『哀』と『歌』を使って名乗るからには、ボーヤが日本の時代調査で知った昭和、そう、もう少し、かっての昭和の時代っぽい、哀愁漂う女性かとイメージしていたが、まったく違う。
 そんな哀歌が恋慕の背後に立つボーヤに気付き、二歩後退りをして、フロアーから睨み付けてくる。これがいわゆる人間界の――上から目線、というやつなのであろうか?
 ならば、ここは負けじと、ボーヤは火花が飛ぶほどバチバチバチと視線をぶつからせてやる。

 されども考え直せば、ボーヤは人類より何億倍も高度な生物なのだ。こんな態度は大人げないと思い直し、ここは余裕で、ケッケッと笑みを送る。
 こんなスマイルは初体験なのか、これにプップッと笑い返した哀歌、今度は眼鏡を外し、ボーヤにはお構いなしで、母に不躾な問いを。
「この人、誰なの? なんでこんな所にいるの?」と。
 これに恋慕はさらりと言い放つ。
「ああ、この人ね、琵琶湖で……、拾ったの」


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊