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古代湖の底から

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「おはよう、坊や、お家に帰るわよ」
恋慕がカーテンを開けると、秋のさわやかな日差しが部屋一杯に差し込んできた。
 ボーヤは今いる場所がどこなのか、忘れてしまってる。しかし、これって……?
 そう言えば、思い出すなあ、ヨロシオマッ星の朝を。
 ハイスクール時代、よく母がいきなり部屋に入ってきて、さっ、朝食よ、と窓を大きく開けた。すると冴えたセルリアンブルーの光が差し込んできた。それを全身に受けて、エネルギーを充当したんだよ。
その後は、ボーヤ、学校に遅れるわよ、と送り出された。そしてふと後(うしろ)を振り返ると、いつもそこに母の優しい笑顔があった。

 ああ、あれから2000年以上も経ってしまったか。もう母はこの宇宙に存在しないだろうなあ。だけど帰星した時に、もし母のDNAが保存されていれば、母の再生を依頼してみよう。
 こんな考えを巡らせている内に、あれこれと指図され、バタバタと恋慕おばさんの自動車という運搬車に乗せられた。
 ボーヤがどういうメカニズムで動くのかと訊くと、ガソリンという化石燃料を燃やしてだと一所懸命説明してくれるじゃありませんか。
 だけどボーヤは、えっ、地球では地中から燃料を採っているのかと驚くばかり。人類はまだ恐竜時代から少しだけ過ぎた時代に生きてるんだ、と再認識する。
 そして道中車窓から眺めると、ボーヤにとっては目の玉が飛び出るほどの風景の連続だった。その中でも一番の仰天は、多くの人間が白い布で顔を隠していることだ。

「なぜなの?」と恋慕に質問すると、ウィルス対策だと言う。
 この答えにはより深く、おったまげた。なんてったってマスクという布一枚で、宇宙の悪魔、ウィルスと戦っているのだから。
 ホモサピエンスって、ホント、バッカじゃないか、そんなもので凶悪エイリアン・ウィルスに勝てるわけないじゃん、とボーヤはついつい呟いてしまった。
 それにしてもなんと呑気な生物かと呆れると同時に、無性に可愛くもなってきた。
そうこうしている内に恋慕の自宅へと到着した。

 なんと言っても今をときめく流行作家、そこは黒塀で囲まれた大きな屋敷。
 恋慕が運転する500馬力エンジンを積むスポーツ車は、自動操作で開かれた門をくぐり、砂利が敷き詰められた敷地内の道をボボボと音を発しながら30メートルほど進んだ。
 その先には大きな玄関ポーチがあり、その端で、別の家政婦さんが頭を下げて待っていた。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊