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古代湖の底から

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しかしまことに残念だ。ヨロシオマッ星人にとっては……、すべて苦手。一つ一つ皿の脇へとのける。
「坊や、どうしたの? あなたは一体何が好きなの?」
 恋慕は心配でナイフとフォークの手を止める。
「すいません、奥さま、食べられるのは、このパンと、そうですね、この葉っぱです」
 これを耳にした恋慕、しばらく沈黙。それから間を置いて、「それって、レタスよ」と教えながら口に含んだ赤ワインをタラーと左の口元から垂らしてしまう。

 不覚にもこぼしてしまったワイン、「あら、嫌だわ、私としたことが」と拭き取りながら、「じゃあ、いつも何を食べてるの?」と問う。するとボーヤは頭上にある華やかなシャンデリアを指差した。
「僕は光食でして、0.2ルクス程度で、あっさりとした青白いのが好きです。そうですね、この星では、月光ですよ」
 恋慕は坊やが語る話しはもう一つ理解できないが、それにしても月光を生命の糧にしているとは、ロマンチックで胸キュン。
 ここはやっぱり創作家、「湖畔で拾った男は、ムーンライト・イーターだったのね」とミステリアスにまとめる。
 ここまでは胸ワクの、強いて言えば、一応非日常的な展開だった。しかし、ここへきて、関西系熟女の本音をついつい漏らしてしまう。

「月光が主食だなんて、安上がりなことだわ。毎晩、月光食べ放題にしてあげる。だから、私のツバメになってみない」
「えっ、やっぱりツバメですか?」
 ボーヤは仰天。そしてしばらく考えを巡らせ、その後上陸してから初めての反発を試みる。
「あのう、僕、スワンなんですけど」と。
 すると恋慕が「えっ、あなたが白鳥? この物語って、私が白鳥の湖のオデット姫で、あなたが王子さまじゃないの?」と首を傾げる。
 どうも話しが噛み合っていない。
 たとえ想像豊かな作家であっても付いて行けてないようだ。

 恋慕の脳はもう混乱の極地で限界だ。要は、脳みそが掻き棒で、コネコネと撹拌された状態に。
 結果、月光とツバメとスワンがまるで糸引く納豆のように絡み合う。
 それでも恋慕にとっては、久し振りに若い男との食事だ。あとはしゃべくりまくるしかなかった。まっ、言ってみれば楽しい一時だった。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊