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古代湖の底から

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一方、伊調神恋慕ってどんな女性? 最近人気沸騰中のミステリー小説家だ。
そして作品を書き終えた時やストーリーに迷った時に、琵琶湖湖畔の別荘にリフレッシュ目的でしばらく滞在する。もちろんナポレオンも一緒にだ。
 今回も新作を執筆し終えてのこと。
 その出来映えは、トリックにおいては論理的でまあまあであっただろう。だが物語そのものが今一つワクワクさせるものでなかった。作者としては傑作と言い切れるものではなかった。
 その原因を恋慕は知っている。いわゆるマンネリなのだ。
 思いはこの日常から抜け出し、誰も経験したことがない非日常的な世界、そこで展開される物語を書いてみたい。

 しかし、事はそう簡単ではない。なぜなら恋慕自身がそんな体験をしていないからだ。
 妄想だけから生まれる小説、それには限界がある。
 しかし、この坊や、ひょっとしたらアンビリーバブルな世界で生きる男では。
 こう直感した恋慕、思い切って誘ってみた。運良くオーケーをゲットし、別荘へと続く道を歩きながら、胸を異常にときめかせるのだった。

 しかし、新たな執筆活動が待っていて、明朝、家政婦に別荘の後片付けを頼んで、京都東山にある自宅に戻るつもりだ。
 そうは言っても、坊やはなかなかのイケメンだ。こんな男を琵琶湖湖畔で拾ってしまうなんて。人生50年以上やってると、こんなこともあるものだと恋慕は不思議な気分にもなってくる。
 そして、こうなったのもナポレオンのお陰、高いお金を出して買った甲斐があったものだ。そのお礼にと、ナポレオンの今夜のディナーには牛の髄入り大骨一本を付け足してやろうと、別荘への道すがら心に決めるのだった。

 やがて日は暮れ、ボーヤを招いての二人だけの晩餐会。どちらも期待するところは異なるが、目一杯に胸を高鳴らせて席に着いた。
 予定されたメニューでは、まずアペタイザーとしてフナ寿司薄切りと新鮮川エビのカクテル、こんな地元淡海バージョンでまず舌を刺激させる。
 サラダは赤コンニャクと赤カブラのレッド盛り。
 そしてスープはもちろん香りが高貴な近江まったけ丸々一本スープ。
 そこから琵琶湖にだけ生息する固有種で、大トロより美味いと評判があるビワマス、そのムニエルへと進む。。
 そしてメインディッシュは、旨味たっぷりの近江牛ヒレステーキ。
 これらを比良山系の野生の山葡萄ワイン、もちろん赤で頂く。まさに琵琶湖極上味巡りだ。
恋慕は腕によりをかけて作り、拾った男に振る舞った。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊