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古代湖の底から

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 されど伊調神恋慕はやっぱり今をときめく作家先生、次から次へと妄想が芋づる的に湧いてくる。
 そしてどこかに行き着いたのか、口を閉じ、フフフと小さく吹き出す。そこから、別段驚かないわよ、てな表情で仰るのだ。
「あなたの彼女は竜宮城のお姫さまなのね。あらららら、琵琶湖にも竜宮城があったのだわ」
 これにボーヤはズルッ。腰がふにゃりと緩む。
 それにしてもこのオバチャン、自分で言って、自分で納得して行く驚異の連鎖妄想の達人。まことにスゴイ。
 それ以上に、吠えることを止め大きく欠伸をしている愛犬に、まるで何ごともなかったように、ゆるりと鎖を付けてるのだから……、やっぱり魔物だ!

「さっ、坊や、もうそろそろ冷えてくるから私の別荘に来なさい。なにか美味しいもの作ってあげるわ」
 次の妄想は男女のアバンチュールなのだろうか。それを期待する見え見えのオファーがボーヤにあった。きっと恋慕は、浜で若いツバメを捕まえたような気分になってるのだろう。
「俺はツバメじゃない、スワンじゃ!」
 ボーヤはこう主張したかった。されどもここは、白鳥座へ帰還するためには何ごとにも我慢することが肝要。
 こういった我慢の場面においての人間的な表情は、口を一文字に結ぶと学んできた。そこでボーヤはちょっと尖った唇で一応試してみる。
 これを見た恋慕がプププと笑う。しかし、高度脳を持つボーヤにはこれから起こる出来事が読めてくる。
 危険だ!
 この中年のメスに、オトコとオンナの愛の淵に無理矢理引きずり込まれるかも知れない。

 だが一方で、ボーヤは人間のことわざを充分習得してきた。その中に、確かあったよな、女穴に入らずんば女児を得ず、ていうのが。うーん、そのはずだけれども……。
 いや違う、虎だ!
 ボーヤはそのタイガーを見たことがないが、宇宙妖怪の以津真天(いつまで)のような魔物を想像し、その意味を今ここで理解した。
つまり、ミッション遂行のためには多少の危ない橋も渡らなければならないってことだ。そして覚悟を決めた。
「それじゃ、お言葉に甘えて、女穴にお邪魔させてもらいます」
 こんな答え方が出来るって、ボーヤはもうしっかり――、ニッポン人のオスに成りきったと言えるかもね。


作品名:古代湖の底から 作家名:鮎風 遊