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暁の獅子 黄昏の乙女

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「田舎娘のくせに、生意気な……」

 口の中で呟いた役人の声を、シルヴィーの耳は拾っていたが、気付かないふりをした。
 エレンの耳もその言葉を拾い、不快そうに眉を顰めたが、このところのシルヴィーの言い付けを思い出しぐっと唇を噛んで堪えた。
 侮られた本人であるシルヴィーが冷静な顔をしているのに、仕えているエレンが主人を差し置いて反論するわけにはいかない。
 それに考えようでは面白いのかも知れない。
 エレンはシルヴィーの教養のほどは知らないが、身のこなしや美貌は十分知っている。
 シルヴィーは、最終選考に残ったらヴェールを取ると言っている。ならば、最終選考に残った時、顔を晒したシルヴィーを見て、周囲の者は驚くに違いない。
 エレンは、それを楽しみにする事にした。
 応対した役人は、国境近くの田舎貴族の娘如き、と侮り、所詮最終選考にまで残れまいからと、生意気な態度を寛容に受け流してみせた。
 それに本人の言も納得のいく物ではあったのだ。
 最終選考にも残れないなら確かに顔を晒すのは恥ずかしいと感じるのかも知れない。
 恥ずかしいと感じる事自体、生意気とも取れるのだが、自尊心を持つくらいでなければ王妃の地位など始めから望むべきではないのだろう。
 役人は、シルヴィーが今後どうなるのか見てみるのも一興と思い直す。
 優雅な仕草は、王都から遠く離れた田舎貴族の娘などの身のこなしには見えない。
 顔はヴェールで隠されているものの、細く華奢で撓やかだ。
 本当にヴェールで顔を隠さなくてはならないほどの醜女なら、他国に名を馳せるほどの美貌で有名な王の隣に並ぶ事に臆して途中で辞退するに違いない。
 この場で受付係である自分が危惧する必要はないだろう。

「選考会の開催は10日後です。その前日の昼までには城内へお移り下さい。その日の夜にはお集りになられた姫君方の歓迎のパーティーが開かれますのでご出席を」
「承知しました」

 最終審査に残れたら顔を晒す、というフルール伯爵令嬢、シルヴィー・エスプリ・ド・フルール嬢の申し状は、その日の内に城中に広まり、生意気だと憤慨する者、好奇心を煽られる者、賛否両論を呼んで、話題と注目の的になった事は確かだった。


作品名:暁の獅子 黄昏の乙女 作家名:亜梨沙