暁の獅子 黄昏の乙女
宣言通り、シルヴィーは翌日から選考会前夜の歓迎舞踏会までの時間の殆どを、図書館で過ごしたのである。
お近付きの印に、と誘いを受けたお茶会なども悉く体よく断って図書室で歴史書に埋もれるシルヴィーの姿は、女性陣からは奇異の目で見られ、男性諸氏からは不思議がられ、ほんの一部の者達からは真剣な目を向けられていた。
真剣な目を向けていた者達の中心にいたのは、豪奢な金の髪と海よりも尚青い瞳の美貌と言って差し支えないほどの美青年で、常に、栗色の髪と琥珀の瞳の優しそうな温和な印象のかなり整った顔立ちの青年と、艶やかな黒髪と碧色の瞳の細身ながら鞭のような強い撓やかさを持つやはり整った顔立ちの青年を伴っていた。
その3人は常にシルヴィーには気付かれない位置から秘かに窺っていたが、彼らとは別に一人の女性がシルヴィーに注目していた。
図書館に籠って歴史書を読み耽っているというシルヴィーの様子を聞いても呆れたり奇異の目で見たりしなかった唯一の女性で、昼の時間帯に誘いを掛ける事をしない代わりのように、シルヴィーが図書室から宛がわれた部屋に戻る頃を見計らって香草茶を届けてくる。
エレンは添えられた署名を見ても誰か解らずに警戒したが、シルヴィーは気付いた上で香草茶の中身を知って喜んで受け取った。
彼女が届けてきたのは、疲れ目や肩こりに効能がある薬草が入った香草茶だったのである。
「ライバルにもならないと思って励まして下さっているのでしょうから」
ゆったりと笑みを浮かべているシルヴィーの様子は侮られている事に怒りを感じている節はない。
寧ろ、どこか余裕さえ感じられて、エレンは見掛けと違う中身を持ち合わせているらしい主人を解りかけてきているところだった。
いよいよ明日の選考会開始前夜は、姫君達の歓迎会の舞踏会が開かれる。
選考会は明後日からで、質疑応答、つまり知識・教養から審査が始まる筈だ。
リオンの話では、お嬢様は図書室で読んだ歴史書を多分全部覚えてしまった筈だという事だからら、選考会の審査に当たる役人達は挙って舌を巻くに違いない。
それを想像すると、エレンは既にワクワクする気持ちが湧き上がってくるのを停める事は出来なくなっていた。
作品名:暁の獅子 黄昏の乙女 作家名:亜梨沙