暁の獅子 黄昏の乙女
シルヴィーが侍女と侍従をそれぞれ一人ずつ連れて城へ入ったのは、殆ど最後だった。
馬車は二頭立てだが、市街地でこそ目立つが、城門を潜れば然程の事はない。それでも、他の者と時期をずらしての入城では人の注目は集まる事になる。
衛兵も案内役も、ヴェールを被っていたシルヴィーのことは印象に残っていたらしい。
あまり目だたなぬように動いていたのだが、いつの間にか注目の的になっていた。
「私達、と申しますか、お嬢様ですわね。すっかり注目の的になってしまっていますわ」
元々多くの荷物を持ち込んでいなかった上にエレンは仕事が早い。
早々に片付けを済ませて、早速情報収集に出て行ったエレンが戻ってきたのは小1時間も経たない頃だった。
「皆さんの反感を買ってしまったかしら?」
「中にはそういう方もおいでのようですけど、仮にもビジュー侯爵様の招待状をお持ちですからね。辺境の出とはいえ元は名門貴族のフルール家のお嬢様。プライドが高くていらっしゃるのも当然、という見方の方が多いようですよ」
「……プライドが高い、と取られてしまってはあまり良い印象ではなくなってしまうわね。謀は失敗だったかしら?」
「その状況の中でも最終審査まで残れる自信はおありでしょう?お嬢様は」
リオンがしれっと言うと、エレンは驚いてリオンを見上げ、シルヴィーに視線を向けた。
シルヴィーは眉を顰めているが、リオンの言葉を否定する気配はない。
リオンの言葉が真実を突いているのかも知れないとエレンが思った頃、シルヴィーはくすりと笑った。
「自信がなければヴェールで顔を隠すような事は逆効果でしょう?」
にこりと、天使のような無邪気そうな笑みを浮かべているが、瞳には確かな自信が浮かんでいる。
エレンは、シルヴィーを控え目な姫君だと思っていたのだが、もしかして違うのだろうか、と戸惑いを覚える。
「エレン。許可は取ったわ。これから毎日、選考会までの間は城内の図書館へ通います」
「と、図書館でございますか?」
面食らうエレンに構う事なく、シルヴィーは意気揚々と頷く。
「そうよ。カストルの歴史について、私は勉強不足な部分があるの。特に歴代の国王陛下のお名前は全部は覚えていないのよ。レオニード陛下の概略くらいしか解らないのでは王妃として失格だわ」
「はあ……」
呆気にとられているエレンを余所に、リオンはやっぱりと小さく呟いて溜息を吐いた。
「やっぱり?」
聞き咎めて小さく尋ねたエレンに、リオンは溜息混じりに小声で答える。
「お嬢様は異常なくらい記憶力が良くて知識欲が激しい方なんだ。男子であらば、とお父上を嘆かせた事もあるくらいなんだよ」
「ふぇっ……?」
ここに来て初めて知った主人の一面に、エレンは只管驚くばかりだった。
作品名:暁の獅子 黄昏の乙女 作家名:亜梨沙