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東京人コンパ

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 僕達、東京人の中の一人の男である忠信がスキューバのライセンスを持っていてみんなにスキューバを勧めるから、夏休みにかけてみんなで青森市にライセンスを取りに行っていた。夏は東京に帰る奴らがほとんどだったが、僕と忠信と宮下晴菜は、この夏休みも九月の連休も東京には帰らなかった。
 僕は試しに九月の連休に近場の八戸で忠信と宮下晴菜と潜った。
 ただ、忠信は海から這い上がるとき、早くにグローブを外してしまい、岩場で右指を切ってしまった。

 ダーツバーで忠信がカットバンをしながら、ダーツをしているとき、僕と宮下晴菜が例の缶のイーグルビールを飲んでいると、またあのどもりが僕と宮下晴菜の間に入ってきて言った。
「み・み・皆さん、すきうばーだいびんぐを、す・するんですね。お・お金持ちですね。
で・でも、すきうばーは危険じゃないですか?サメとか出ないですか?」
「ああ、あの忠信の右指の負傷あるだろう。あいつサメと格闘したんだ。サメの開いた口を手の力で抑えたんだ。あの程度の傷で済んだのは奇跡だね」と僕は言った。
「十五メートル程の大王イカもいたのよ。私巻きつかれて、忠信君と宮澤君がナイフで、大王イカと闘って救出してくれたわ」晴菜もそう言った。

 十月のはじめ、みんなで竜飛岬に潜りに行く約束をしたから、バイトを組んでいた奴らも、そのとき休みは取った。忠信の借りた小さなマイクロバスでみんなで竜飛岬に向かった。行く途中、cheer clockやwildスリーの音楽を聴きながら修学旅行気分で向かった。そうはいっても僕達にとって、毎日毎日の生活がなんか修学旅行みたいなものだった。
 同じ音楽を二度も三度も聴いたので僕達はラジオに切り替えた。ニュースが流れた。
“小柳証券の派遣社員が情報を流出し、六千万円もの金を受け取った問題で”
「小柳だって久美と同じ名前じゃん」
 杏が明るい声で言った。
「小柳証券はパパの会社よ」
 久美が言った。
「えっ?小柳証券の娘。超お嬢様じゃん」
 忠信が言った。
「でもパパこの前の派遣社員の不始末で四苦八苦しているみたい」
「へえ。社長も大変だね」と忠信がそう言った。
「でも久美ちゃん。お嬢様なんだからさ、やっぱ教育がよかったんだろうなあ。俺と違って。いろいろ習い事とかしたの?」早見がそう訊いた。
「まあ、英語とかの家庭教師はついていたし、小さい頃から乗馬とかアーチェリーとか、スノボーとかやらせてもらったけど、本格的にやった習い事といったら、ピアノとフルートかな。ピアノは小学校に上がる頃から、フルートは中学に上がるとき、父の勧めで始めたのが、きっかけなの」
「そういえば久美、吹奏楽部だったよね」
 沙織が言った。
「そうよ」
「何かコンクールとか吹奏楽部で賞を取ったりしたの?」
「団体ではないけど、東京都高等学校吹奏楽コンクールの個人の部で三年連続金賞を受賞したわ」
「へえ。じゃあ本格的にやってたんだ」
 沙織が言うと、久美は、
「私の場合ただもともとやらされていたのがきっかけだけよ」
「すげえな。俺も第一京浜でドリフトなんかはよくやったけど」
 早見が言うと、
「危ない。早見君は絶対運転しないでよね。事故るから」
 杏が言った。
「俺の運転は抜群なのになあ。コンクールがあったら金賞取ってもおかしくないくらい」
「誰が金賞って決めるのよ」
 沙織が言うと、
「そっか」と早見は言って、みんなで笑った。
 
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一