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東京人コンパ

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 その晩、金曜なのでいつものダーツバーに行って、みんなと会った。
 早見という男が店員と交渉している。
「毎週来ていつもかなりの量のビールを飲んでいるのだから、少しは安くしてくれ」
 そう頼んで、店員は困っているようだ。
 早見という男は相当のSで地元の女の子との女遊びもひどい。でもそんなSな奴ほど、たまにいい交渉をしてくれる。
 話が前に進まないでいるとき、
「ところでその大きな冷蔵庫はなんだ?」
 早見が店員に訊いた。
「ああ、それは捨てようと思っていたんですよ。粗大ゴミとして捨てるにもかなりお金がかかっちゃうから。なかなか捨てられなくて。うちも経営が厳しいんです」
「じゃあその冷蔵庫使わせてよ」
「えっ?」
「イーグルビールを大量に注文して、原価とは言わないが、原価に近いくらいの値段、そうだ、イーグルビールの缶を一本百五十円で提供してくれ」
「そうおっしゃりましても人件費とかかかりまして」
「いや冷蔵庫に大量に冷やしてくれさえしてくれればいい。その冷蔵庫に冷やしてくれれば、俺達が勝手に取りに行く。最初に大量に五十本なら五十本、百本なら百本発注したら、その分の原価を上回るお金を先払いで払う。料理は注文するし、ダーツだって遊ぶ。悪くないだろう」
 店員達は顔を見合わせている。
「分かりました。みんな先払いでしたら、それで引き受けましょう」と店長が言った。
「よっしゃ。交渉成立」
「すごいね。自由過ぎない。東京じゃ絶対ありえないわ」と杏がそう言った。
「まあ俺達もビールが一本百五十円で飲めてありがたいし店の利益にもなっているんだから」幸久も言った。
「でも他の客が、私達の真似をして、勝手に冷蔵庫からイーグルビール取ったらどうするの?」晴菜が言うと、
「さあ?私達以外あまり客来ないし」と沙織がそう言った。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一