小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

東京人コンパ

INDEX|4ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 


 もう夏も終わり、九月の授業が始まった。僕はギリシア文学Bという講義を受けながら、考え事をしていた。
 
 僕は藤田杏という子と添い寝をして、宮下晴菜という子とキスをした。どちらも本命じゃないけど。
 講義を受けていると東京人コンパで顔なじみの織田沙織という女の子がやってきた。
「宮澤君。隣りいい?」
「いいよ」
 沙織は僕の隣の席に座った。
「あなたのアパートに行っていいって言ったらあなたはいいっていうのかな?」
「まさか。僕達はそんなに話もしたことないのに」
「でも晴菜とキスをしたでしょう。杏のハイツにも行った」
「その話は講義の後にしようよ」
「どうせ聴いてないんでしょ。ギリシア文学の講義なんか」
「聴いているよ。オイディプスの心理とか」
「あなたはそのままだとオイディプスになっちゃう。犯人探しをしていて悪いのが誰だと探求していたら、それが自分自身だということに気づくの。恐ろしい。これこそ最大の悲劇よ。シェークスピアの四大悲劇にもこんな恐ろしい悲劇なんてないわ」
「何が言いたい」
「このままだと早見君みたいになっちゃう。早見圭。うちらコンパの仲間の」
「ああ、彼か、悪くないんじゃない」
「何言ってるの。彼の悪評って言ったら最悪よ。女をもて遊んで。寝て。一日で別れる。その繰り返しよ。毎晩違う女の子と寝てるの。もう五十人は飽き足らないわ。しかも彼女を口説いて寝た話をみんなに自慢げに話すの。最低」
「ちょっと待ってよ。五十人と寝た早見と、二人と少しHに近いことになった僕を一緒にしないでよ」
「でもね。宮澤君。晴菜も杏もあなたに本気よ。あなたあの二人を本気にさせたのよ。この罪は重いわ。しかも宮澤君、あなた久美のことが好き。そうでしょう?」
「何で分かる?」
「コンパでいつもモデルみたいな顔をした久美のことを、チラチラ見てるんだもの。バレバレよ」
「まあ、君の忠告、真摯に受け止めるよ。罪悪感はあったんだ。二人に対して。悪いと思う。もう中途半端なことはしない」
「そう、分かってくれる?」
「分かった」
「じゃあ、今晩私と付き合ってくれる?」
 意表を突く彼女の言葉に、
「ちょっと待て。今、君が忠告したばかりだろう。僕が久美のことを好きなことも知ってる」
「でも、私も宮澤君、あなたのこと気になってるし」
「ちょっと訳分からないよ。君が僕のところに来たのは中途半端な女遊びをしない、あとで痛い思いをするのは自分だ。それを教えに来たんじゃないのか?そうだろ?」
「でもあなたは小柳久美に片想いしているでしょ。一緒に手も握ってもらったこともないくせに」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、私も宮澤君に片想いする権利くらいあるわよね。私ずっと待ってるわ。宮澤君、あなたが久美から、私の方に振り向いてくれるまで」
「それが、君の言いたかったことか?」
「君じゃなくて、沙織って呼んで。とにかく、あなたが早見みたいなクソ男と一緒にされるの堪らないの。わたしあなたのなんか中性的なところ好きよ。あなたの声を聴いていると落ち着く。変わったしゃべり方ね。そう。あれ。一/f揺らぎって言うんだっけ。あなたの声にはなんか一/f揺らぎみたいな効果あるわよ。私が話をする。あなたがその声で相槌を打つ。最高だわ。早くあなたをモノにしたい」
 そんな話をしているうちに講義が終わってしまった。そして僕達は次の講義のため別れた。向こうは待ち合わせをしましょと言ったが、僕は用事があると言って断った。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一