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東京人コンパ

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 その頃渋谷―
「早見達上手くやっているかな」沙織が言った。皆ラジオに耳を傾けた。
“ただいま入ったニュースです。関越道、東北道、常磐道、中央道、東名道、京葉道、第三京浜に暴走族と思われるものが東京の中心部を目指して走っています。神奈川、埼玉、千葉の暴走族がひたすら東京に向かって群れをなして走っています。かなりの数です。繰り返します……」
「早見……」沙織は願った。

一方早見と紫雲無道は―
「駄目だ。わしには百六十キロを出すのが限界だ。早見お前もっと出せるか?」
「ああ。時間がない。この車ならおれの愛車よりスピードが出る。あと三十分。時速二百キロキープしたまま東京に向かう。代ろう」
「よし」
 二人は運転を代わった。そして早見は時速二百キロで京葉道を走り出した。
「もってくれよ。クールなフェラーリお前に乗っかっていると最高の気分だよ。浮気相手には最高だ。俺には一生もうこんな車乗れないな」
 渋谷がいつもどおり多くの人が歩道を歩き、誰もこのステージ裏に気づくことはなかった。
「薫そろそろね」杏が言った。
「うんそうだな……」
 そして僕は空を仰ぎ見、心の中で思った。僕達のこれからすることは政治活動、宗教活動、そういったたいそうなものではなく、それは例えば自分の青春を捨てる買春に走る女子高生なんかとまったく同じ類のものかもしれない。
 神様僕はこんな風に人の道から外れたことをするのです。神様人生の中でただ一度だけ人の道を外れることをお許しください。
 僕は人の道から外れるのです。
 でものちのち後悔するなんて往生際の悪いことなんて決して言いません。
 僕は青春を捨てるのです。
 もう僕の中で引っ込みがつかなくなっているのです。
 なんて言うか
 引っ込みがつかないという言葉が一番適当かもしれません。
 僕は今から罪を犯します。
 
 僕は杏に声をかけた。
「杏大丈夫?スティックが震えたりしない?僕は女の子をこんなことに参加させてしまって」
「私は薫と会ったときから清らかさなんてすでに持ち合わせてなかった。とうにそんなものは捨てていたのよ」
「晴菜も」
「薫にしたがうわ。それだけでも幸せ。あなたのやりたいことに参加できれば何もいらない。あなたと会ったことで少しでも何かが良くなればそれでいい。私あなたを信じる」
「忠信……」
「俺は男だ。人生なんとでもやり直せるし何とか生きていける。心配するな」
「久美……」
「私あなたのいいとこも悪いとこもみんな知ってる。でも好きだよ。薫。薫が私の初めての人なんだからね。今からやりきろう」
「ありがとうみんな」
 渋谷は女子高生と思われる女子が笑いながら群れをなしてたむろっている。リュックを背負い待ち合わせをする若い男子がいる。また日焼けサロンで焼いた若者男女がおしゃべりをしている。
「はじめるか」
 僕がそう言って幕が上がった。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一