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東京人コンパ

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 僕は久美と杏と晴菜と沙織と忠信と幸久と早見を奥入瀬ホテルに呼んだ。そしてある決意を実行するために皆に話をもちかけた。
「ゲリラライブ?」
「そうゲリラライブを決行しようと思うんだ。東京のど真ん中で」
「例えばどこで?」杏が訊いた。
「うん。渋谷にしようか。新宿にしようか」僕が言うと、
「そんなところでライブなんかやったら、警察に御厄介よ」
 沙織が言った。
「そうだけど……」
「おもしろそうじゃん。俺は協力するよ。だって悔しいじゃん。みんなバンドで成功して薫も久美ちゃんもなにも悪いことしていないのに芸能界からほされて、このまま黙っていられるか?俺はできるだけ人を集める」早見が言った。
「どうやって?」杏は尋ねた。
「俺はこれでもちょっとは関東中に名が知られているんだ。第一京浜の早見としてね。東京中の走り屋や暴走族を味方につけて、ゲリラライブを妨害する警察やら何やら相手に、いっちょひと暴れしてやる」
「大丈夫?」沙織が言った。
「嫌なら嫌で協力してくれなくていい。僕一人でもやってやる。確かに警察に御厄介になるかもしれないから。強制はしない」と僕は言った。
 みんなしばらく沈黙した。
「私やる」以外にも久美がそう言った。
「だって私社会と喧嘩したいし」
「私も」杏もそう言った。久美も忠信も幸久も晴菜も協力すると言った。
「こんなことに協力するなんて私マネージャーとして失格だわ。でも私も協力する。皆と一緒に心中するつもりで」
「よしやろう」
「おう、今から飲みに行くか」忠信が言った。
 そしてダーツバーに電話をした。今客が一人も入ってないらしい。
「ダーツバー貸し切るぞ。そしてそこで飲みながらプランを立てる」と忠信が言った。
「オーケー」と僕は言った。
 僕達はダーツバーで飲み明かすことにした。
「大学生活もあとちょっとで終わりだな」と忠信が言った。
「このダーツバーがすべてもの始まりだった。僕達東京人コンパがすべてもの始まりだった」僕は思い出を振り返るかのようにそう言った。
「俺達だけの冷蔵庫。百五十円のイーグルビール。でかいだけが取り柄の冷蔵庫だったな」早見は言った。
「薫って呼んでいい?」と杏が言った。僕が久美の方に目をやると、久美は「いいわよ」と言った。
「やったー。薫。あなたに運命を預けるんだからね。責任とってね」
 晴菜も沙織も僕を薫と呼んだ。
 僕と久美は関係が冷めているから、そんなことどうだってよかった。
「東京に帰ったら薫以外の彼氏作るんだ。私薫がいなくても全然平気」そう言って久美は自分の缶ビールを僕の缶ビールに当て、乾杯した。
「僕も久美がいなくても全然平気」二人でぐいっとビールを飲んだ。世界で一番悲しい乾杯だった。
 いつの頃だったかな、僕達は不本意に大人になって、でも全然大人になる準備ができてなくて、カッコ悪い話、いつも悩みは金がないとか、バイトがきついとかそんなことだった。大人になりきれないのに一丁前に痛みだけは感じやがる。笑っちゃうね。矛盾屋もいいとこだ。
 僕達は大学を卒業したら皆東京に戻る。やっぱり東京が一番暮らしやすいんだ。そしてここでの生活はなくなる。跡形もなくなる。それは歴史に名を残さなかった。もう二度と語り継がれない英雄のような、何の可能性もない思い出だった。
 僕らの思い出は残る可能性がないんだ。きっと時間が経つごとに色あせるんだ。みんなバラバラになる。
「俺達みんな友達だよな。今思えば必死で生きてきたけど、結構大学生活楽しかったな」忠信が僕にそう言った。
「そうだな」
 未来が見えないよ。
 そんなもんだろ。
 僕達は間違っているのかなあ?
 社会に否定されたって僕達は生きているんだ。
 そう僕達は生きているんだ。
 僕達は自分達に潜む暗さを吹き飛ばすかのように笑った。それはまるでから騒ぎだった。そうそもそも僕達の青春は必死なまでのから騒ぎだった。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一