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東京人コンパ

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久美と青森のハイツで過ごしても久美は四六時中ベッドで俯けになっていた。
「久美……」
 久美は無言でベッドで寝ている。
「なあ、久美また立て直そうよ」
 久美は全く反応がない。
「久美僕達はここで腐っちゃいけないんだ。それは僕達が一番よく知っていることだろう」
「腐っちゃいけないってことが僕達の覚えてきたことだろう」
 久美は時折部屋で
「ギャー」と声を出すことがあった。
「久美。そんな声出すなよ。隣りの人に聴こえちゃうよ。僕達追い出されちゃうよ」
 それでも久美は「ギャー」と声を出すのだった。
 
 それから毎日無言の食事が始まった。
 ポトフを作った。しかしその中にある肉は国産黒毛和牛のステーキ用の肉だ。
 二人で無言でポトフを食べる。
 久美は肉を口にして「固い」そう言って口から肉をちり紙に出した。
 肉を煮込み過ぎて固くなってしまった。
 少しでも惨めにならないようにと国産の牛肉を買ったが、ポトフにステーキ用の肉は合わない。僕は何をやってもやることがちぐはぐだ。
 久美は肉だけを残してポトフを食べ終え、またベッドにうなだれた。
 ああ、どうしてこうなるんだよ。犯罪者の子供。小柳証券の社長の娘とその取引先の会社の社員の息子。ああ、すべてがどうでもいい。誰にだって分かるもんかこの気持ち。
 どうでもいいんだよ。
 ああ、僕達は犯罪者の子供。たとえそれが真実だとしても、僕達の愛が、青春が嘘だったとは決して思いたくない。
 裏切り、憎しみ、だまし、虚栄、コネ、闇金、都会には東京にはそんなものが満ちている。
 現実を忘れたいって結局僕達はこうなんだ。現実で生きていけないんだ。社会なんて嘘だ。大人なんてみんな詐欺師だ。
 いつだって人をどうだますか必死に考えている。
 大人なんて嘘だ。
 社会なんて嘘だ。
 僕はテレビの番組で観たんだ。ある障がい者の十五歳の女の子が車椅子に乗っていて、その子は普通にしゃべれなくて、それを新人アナウンサーが話しかける設定だ。でもそのアナウンサーテレビが自分のところに回ってくるまで、その障がい者の女の子をちっとも気にかけないんだ。声すらかけない。ずっと自分のネクタイがちゃんと閉めてあるかとか髪型が整っているかなど、鏡で気にして声のチェックをして、まるでその障がい者の女の子がそこに全くいないかのように全然テレビが回ってくるまで気にかけやしないんだ。テレビが回った途端に女の子に対する変わりようったらなかったね。大人なんてみんな嘘っぱちだ。
 社会なんてみんな嘘っぱちだ。
 
 そうして僕達はさっぱり芸能活動をすることなく大学四年の秋になった。その頃の僕と久美の関係も冷めていた。僕は四時頃に目が覚め、また寝ようとしたが眠ることができず、ランニング用の長袖、長ズボンに着替え、久美に声をかけずにジョギングに出た。十和田市内を走り、森林の方へ向かった。マイナスイオンが満ち溢れるその森林の中に湧水がある。桂水大明神という水だ。
 
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一