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東京人コンパ

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 月日が経ち、ようやく僕達にもまとまったお金が入ってきた。僕と久美との二人暮らしも、今まで本当にみすぼらしく、ままごとみたいな二人暮らしだったけど、どういう訳か、お金が入ってくると久美も安心し、まるで頼りなかった僕の存在も頼りがいのあるものに変わるのだ。
 どういう訳か。
 ただ忙しさについては、前より一層忙しかった。ほとんど寝てない日が多く、いわゆるナチュラルハイな状態が続いた。週刊誌の一件も大事には至らず、むしろ僕の知名度を上げてくれた。すべてが順調だった。怖いくらいだ。

 ただ僕のバンドジャックナイフも有名になったがどのテレビに出ても言われることは
「キーボードの久美ちゃん可愛いね」
 そればかりだった。久美にはモデルの仕事はもちろんCMの仕事も入ってきた。国民的アイドルになった。そして僕が久美と同棲していることも日本中に知られた。
 皆で割といい焼き肉店で打ち上げをした。久美と晴菜と杏と忠信と僕とでだ。
「本当忙しくなったね。街で久美と歩いてると、久美さんですよねって声をかけられるもの。私と晴菜なんか二人で渋谷を歩いていても全然声かけられないのに」と杏が言った。
「本当久美と、宮澤君は日本中に顔を知られたよね。もううかつに街を歩けないじゃない。青森に住んでて良かった。周りの視線を気にせずに暮らせるから」晴菜もそう言った。
 その後も僕達は、青山の中華レストランや赤坂のフランス料理店などで食事ついでに打ち合わせをした。
 僕もたった二回だけど雑誌の表紙に載ることになった。久美には勝てないが、僕もそこそこ国民に知られる立場になった。
 充実していた。本当に順調だった。そして幸せだった。恐いくらいに。
 久美との同棲も毎日が楽しくそして甘い日々を過ごした。
 住職の紫雲無道にも挨拶に行った。
「物事が順調になったとき案じる心が生じる。その案じる心を断ち切ってはいけない。それは東洋と西洋においても考え方が違うが、少なくとも我々日本人は案じる心を断ち切ってはいけない」と住職はそう言った。
「言っている意味分かる?私には何が何だか全然分からないんだけど」杏は言った。
「このおっさんもちょっと変だよ。前から変だ、変だと思っていたけど、あんまり関わらない方がいいんじゃない?薫達が芸能人になっているのに、このおっさんだけは全く動じないじゃん。芸能人とか分かってんのかなあ。だいたいこのおっさんのうちテレビあんのかなあ」と早見は言った。
 ダーツバーでは貸切で打ち上げに行くことはあったが、もう前みたいにフラッと行くことはなくなった。でも僕達はこのダーツバーには恩がある。今はこのダーツバーで演奏してないが、僕達がかつてここで演奏をしていたことは十和田市内で周知のことになり、人が集まった。
 本当に順調だった。
 あることが週刊文集に載るまでは。
 あるとき僕が奥入瀬ホテルで食事と、今後の曲の方向性について話し合ってたときだった。早見から僕の携帯に電話がかかってきた。
「今どこ?」早見がそう言ってきたので、
「奥入瀬ホテル」と僕はそう言った。
「すぐ行く」そう言って早見は電話を切った。
「何?何?」杏がそう訊いたので、
「早見から。すぐこっちに来るって」
 晴菜も不思議そうにしている。
「何で早見がどうしたって?」晴菜が訊いた。
「何か物々しい口調で言ってたけど」
「何だろう……漫才の事務所首になったのかな」
「さあ」
 そして二十分後早見がやってきた。
「ハア、ハア、ハア」早見が雑誌をもって入ってきた。その雑誌は週刊文集だ。
「どうした早見?」僕が言うと、
「これ見て」早見が突き出したのは週刊文集の記事だ。そこにはこう書かれている。
“人気バンドジャックナイフ小柳久美と宮澤薫は犯罪者の子供”
 僕達が目にしたのはそんな記事だった。
 僕と久美の写真も出ている。いつもより顔がよく撮れていない写真が使われている。久美はともかく僕なんかまるっきり不細工な写真だ。
「こんなの関係ないよ。親がやったってことでしょう?私達は私達よ。こんなので私達の人気なんか左右されないわ」杏が動揺しながらそう言った。
「でも私嫌な予感がするのよね」と久美が言ってみんな深刻になって黙った。その日は別れた。
 それから三日経ってからだった。マネージャーの沙織が情報を仕入れていた。
「この間決まっていた、久美のCMの仕事が降板に。なかったことにって電話が」そう言うので皆もだんだん不安になってきた。
 ライブステーションの出演も降板になった。
 僕達はことごとくテレビの仕事、ラジオの仕事が降板になった。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一