小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

東京人コンパ

INDEX|33ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

 次の日久々にダーツバーに行った。
 忠信と幸久と早見と杏と晴菜と沙織、そして久美、フルメンバーだ。
「音楽はいいのよねえ」
 こないだのばら焼のイベントの演奏を録音したCDを沙織も早見も幸久も聴いてくれた。
 「音楽は決して悪くない。俺は音楽にはうるさいけど、これかなりいけてるよ。第一京浜、走り出したくなる気分にさせてくれる。他のもみんないい」と早見は言った。
 そこにいたどもりの久慈君が、
「あ……あの。さっきから、け、携帯から聴こえる曲、皆さんが作っているんですか?」
「そうだよ」
「プロみたいですね」
「明日、ミュージック・ステージに出るからね」晴菜は言った。
 そう言うと、久慈君は本気なのか冗談なのか分からずおろおろしているので、晴菜はたまりかねて、
「冗談よ。私達、全然売れないの。パッとしないのよ」
「あ……あの、ぼ、僕は皆さんのイベント、次に必ず行きます。そ、その曲、僕の携帯に入れて下さったら、ぼ、僕、か、必ず少ないですが友達に、か、片っ端から、宣伝します」
「ありがとう。久慈君。あなたの合気道の試合も観に行くからね。そこのイーグルビール一本あげるわ。飲んでいいわよ」
 そう言った。そのとき早見が言った。
「そうだ。イーグルビール配ればいいんだ」
「えっ?」
 僕が驚くと、早見は続けた。
「イベント会場で、音楽を聴いてくれる人に、イーグルビール配ればいいんだよ。一本百五十円だろ。百本配っても一万五千円だ。宣伝費よりずっと安い」
 杏も、晴菜も悦に入った。
「早見頭いい。それいいかも」
「でも次のイベント八戸だぞ」
「ぼ、僕運びます。く、クーラーボックスは、店に五つも余っています。こ、氷も用意できるのでイベントで配れます」久慈君が言った。
「よっしゃあ、希望が出てきた」
 そして八戸でライブの日が来た。
 忠信はスキューバー用のマイクロバスを用意してくれた。早見と幸久と沙織も同行してくれた。
 イベントはフラワーガーデンのイベントだ。
 この間の僕のステージと同様、どのバンドに対しても、客はポツリ、ポツリとしか集まらなかった。そして僕のステージの番だ。僕のステージの紹介のとき、早見がイーグルビールを持って「このジャックナイフのステージを観て下さった方にイーグルビール一本プレゼントします」そう言うと、何人かの人が振り向いた。
「ビールもらえるの?」一人のおじさんが訊いた。早見は、
「ええ、もし聴いて下さったら」
「じゃあ、聴くか」
「ありがとうございます」
僕達がステージに上がるともう早見と幸久と沙織がビールを配り、長蛇の列ができていた。パイプ椅子は百脚ある。
 僕達は確かな手ごたえを感じ、僕は歌を歌った。
 杏のドラムもいつも以上にはずんでいる。忠信も緊張しているんだろうが、練習の成果が出て、ミスもない。晴菜のベースもいい。
 久美のキーボードはずば抜けていた。もともと実力派の久美のキーボードが目立つよう作曲されているんだ。久美は高校生の中で、日本一になった実力だ。皆久美のおかげでやりきれてる感はある。
 そして百脚のパイプ椅子は全席埋まった。立ち見の客もいた。そうして僕達のステージが終わると、皆から盛大な拍手をもらった。
「いいぞー」
「カッコいい」
「キーボードのねえちゃん可愛い」
 久美はうちらのバンドの中でもとびきり目立つ。
 僕達は十和田に帰り、ダーツバーで打ち上げをした。
「かんぱーい」
「大成功だったね」
「でも俺ちょっとミスった」忠信は言った。
「僕のボーカルもまだまだだ。練習のときは上手くいったのに。生まれて初めてあんな大勢の前で歌ったんで緊張して」
 久美は「気道が閉まって、声が通らなかったのね」
「そうなんだ」
「やっぱり私達、ステージ慣れしてないからね」杏が言った。
 早見は僕達のステージをとった画像を携帯で店員の人に見せた。
「すごい人気じゃないですか」
「まあね」早見が言った。
「あんたは演奏してないでしょ」杏が言うと、
「ちょっと待てよ。俺はあんなに大声を出して客を呼んだんだぜ。大体このアイディアも」
「そうだったわね。ごめん早見。早見のおかげだよ」杏はそう優しく言った。
「そうだよ。俺のおかげでこう人気が出たんだよな」
 でも店員が、
「最近なかなか来てくれないじゃないですか」
 そう言ったので、忠信が、
「音楽始めちゃうとお金がなくてね。なかなか来れないんだ」
 そう言うと、店員同士で話し合うため奥に入った。一人の店員が、言った。
「ここのダーツバーで演奏しませんか?見てのとおりもともとうちは客が来なくて。ただ演奏料は払えません。無償の演奏をしてもらえば、その代わり、ダーツバーで遊ばなければお金は一切取りません。一本百五十円のイーグルビールを冷蔵庫から取ってくだけで、他に注文をしなくてもいいです」
「ここで演奏?」忠信は訊いた。
「どうする?」晴菜は言った。
「名案よ。だって、ステージ慣れできるじゃない」杏は言う。
「最高の条件だと思うわ。断ったらあとで絶対後悔するわよ」久美も言った。
「よしこの条件でのんでいい?異論は?」
 僕の発言に誰も反対する人はいなかった。
「よし、僕達からもお願いだ。ここで演奏する。変わらずイーグルビールは、一本百五十円で。演奏料はいらない」
 それからだろうか、僕達は着実に実力をつけていった。何より足を引っ張ってた僕のボーカルがやっとまともになった。ステージの上でリラックスできるようになったのも大きな一因だ。久美はいち早く僕の変化に気づいた。
「薫の声しっかりしてきた。今までステージに立つと、喉元や胸式で声が出てたけど、今では完全に腹式になっている。高音の声が奇麗に聴こえるための“ささえ”もしっかり練習してきて、結果が出てきたのね。声を出すときの口元から“圧”もかけずに優しく通る声が出てるわ。まさかこんな短期間でものになるとは思わなかった」久美が言った。
僕はそれに対して「みんなのギターやベース、ドラムも凄い急成長してるよ。本当驚きだ。そして何より頼もしいのは久美の作曲の才能だ。もともとクラシックで正統派の音楽の基礎ができてるし、久美は絶対音感もある。頭の中で楽譜ができちゃうので、普段から過ごしているときも、いい曲が思いついたら、楽器なしで楽譜に音符を書き込む。もともと楽譜がプリントされたメモ帳をいつも持ち歩いている」そう言った。

 僕達は次々とイベントで演奏した。
 
 五月二日十和田桜祭り観客推定百人動員

 六月十五日下田フェスタ演奏推定百五十人動員

 六月三十日五戸フラワーフェスタ二百人動員。

 その間中早見達はビールを配って客を呼び込んだ。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一