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東京人コンパ

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 いろいろな女の子があちこちで待ち伏せをしていたが、みんな断り、杏、晴菜、沙織とも会わないことにした。僕は久美と会いたい。
 僕はクリスマスイヴに一人図書館で過ごしたが、五時には閉館になってしまい、外に出ることになった。
 クリスマスイヴでも図書館は深夜までやっていればいいのに。そう思った。

 どうしても久美に会いたい。どうしても会いたい。彼女はカウンセリングを受けていると聞いた。病んでいるのか。精神科の病院にでもいるのか。僕は十和田の病院を探し、心誠会病院という病院に行った。
「小柳久美さんの面会に来たものですが」
 僕は病院の受付の人にそう言った。
「小柳さんですね。あれ。小柳さんはこの間他の病院に転院されましたが」
「どこにですか?」
「ええと……あの失礼ですが、小柳さんのご家族の方?」
「あ、いや、いえ、友達です」
 それを聞いた受付の人は一旦引っ込み、事務の人と何かひそひそ話していた。
「なんか凄い美人だったからねえ。うん。うん。そうした方がいいよ」
 そんな会話が聞こえた。受付の人は戻ってきて、
「すいませんが、守秘義務というものがありますので、ご家族の方でないのなら、お教えすることはできません」
「ここの病院にはいないんですか?」
「はい。では失礼します」
 そう言って拒まれるように窓口の窓を閉められた。
“でもやはり久美はどこかの病院に入院している。青森か東京かは分からない。僕は電話帳で病院を探した。ひょっとしたら市内ではなく、十和田湖の方に行って休養しているのかもしれない。まだ十和田湖までのバスはぎりぎりある。行くことは行けるが帰ってこれない。どうする?どうする?”
“ええい。どうにでもなれ。僕は自分の人生をルーレットにでもゆだねたい気分なんだ。行ってやる。久美がいるか分からないが、十和田湖に今から行ってやる”
 僕はバスに乗り込んだ。
 自分のしていることが分かるのか?
 僕は何をしている?
 この時間帯に十和田湖行きに乗る者は僕一人しかいない。
 山道に入った。
 日の当らない森林の緑が四方八方に広がっている。暗い暗澹たる緑。
 その緑は迷宮入りの推理小説が何かの拍子に迷宮のただなかで破れてしまい、そのままの暗さだけが残っているかのようにも見えた。
 十和田湖に着いた。地図を見ると、十和田湖心誠会病院だけが、ここでの唯一の精神科のある病院のようだった。
 病院の前にたどり着いた。守衛さんがいた。その入り口以外は壁の上に鉄の針がぐるぐる巻きになって壁を這いあがっても入り口以外からは出られないようになっている。
 それはまるでナチス下のアウシュビッツ強制収容所を連想させる類のものだった。
 でも外から見ていると守衛は病院の中を行ったり来たりして、たまに個室から十分程度留守にしていることが分かった。
 そしてまた守衛がいなくなった隙に僕は中に入った。
 
 窓の方を見た。
 そのときだった。
 偶然という長針と短針が一つに重なりあうような奇跡だった。
  一階の窓から久美がこっちを見ている。
  僕は近づいた。彼女が窓を開ける。
 「久美」
 「宮澤君。どうしてここが分かったの?」
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一