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東京人コンパ

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 何もまとうこともなく、そして白い本当に白く美しい裸体だった。気が付いたら僕も服を着ていない。
「僕達は裸で抱き合えばいいの?」
「そう、罪が業のようにまとわりつく。それをいやすために抱き合うの、ねえ、いいでしょう?」
「うん、すごくいい」
 月光が久美の裸をキラキラと照らしつけた。
 僕達は身体と身体をそっと寄せ合い触れ合った。
 久美は僕の首に手を回し、僕は久美の体に手を回した。
「ここで気持ち良くなるのよ」
「でもここは海の中。上には数匹のイルカもいるし」
 僕がそう言うと、
「大丈夫。イルカは私達の邪魔はしないわ。ただああやって月の光の下でグルグル大きな円を描くように回っているだけ」
「そう、じゃあ、いいんだね」
「私処女なの。私の初めてをあなたにあげるの。これは神聖なる儀式よ。今日は初めての夜になるのだから」
「そうか、月光の注ぐ海の底でイルカがグルグル回りながら初めての夜を過ごす」  
 僕と久美は一つになった。
「痛くない?」
 僕が言うと、
「大丈夫。ゆっくり動かして」
 僕は彼女の中でゆっくり動かした。
「本当に痛くないの?処女なのに」
「神様が私達のために初めてでも痛くないようにしてくれたの。今日は最高に気持ち良くなっていいの」
「月の光も妙に明るいなあ」
「これも神様がしてくれたの。私達のために月の光も明るく、海の底でも暖かい」
「そうか最高だ。最高の夜だ。ずっとこのままこうしていたい」
 だんだん久美の姿がぼやけてきた。月の光も雲に隠れてしまった。
 体が冷たい。いや寒い。
 そのとき僕は夢から目が覚めた。
 僕は渋谷の地下連絡通路にいた。寝てしまったのだ。時刻は朝四時半だ。
 地下を歩く者もいる。
 終電を逃して朝帰りしている者。早朝から出勤する者。そんな人達がもうこんなに早くから歩いている。
 僕は東京にいても、いろいろ不都合だらけだから青森に戻ることにした。ひょっとしたら久美は青森にいるのかもしれない。
 僕は新幹線で青森の十和田に帰った。そして僕はその後も大学に通い続けた。相変わらず杏や晴菜、沙織からは言い寄られるし、地元の女の子からも、週に一回、多いときで三、四回くらいラブレターをもらった。
 食事中もいつも久美のことを考えていた。
 地元の子と学食で食事をすると、
「私達こんな学食で食事してたら、大学でうわさにならないかなあ」女の子がそう興奮しながら言っているが、
「うん」
 と、僕は返事になっていない返事をしていた。
 たいてい僕の返事は、
「うん」「さあ」「へえ」くらい
の返事しかしてなかった。
 そんな日がずっと続きクリスマスイヴの日になった。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一