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東京人コンパ

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 あるハロウィンの日のことだった。僕と忠信と幸久と早見と晴菜、杏、沙織、つまり久美以外でダーツバーのハロウィンパーティーに参加する予定でいた。だが早見だけが一向に現れない。他のみんなは集まっているのだが。
 僕は家の中の服をかき集め、芸能人の仮装をした。
「どうしたんだろ、早見」僕が言うと、
「あいつビジネス・ウッドの仮装をするってはりきっていたのに」沙織が言った。
「ビジネス・ウッドってそんな特徴あるカッコだったっけ?」
「さあ、紳士服着ている印象しかないけど」
「もう九時になるよ。仮装コンテストしめ切っちゃうよ。早見出れないじゃん」
「でも賞金十万円は魅力的よね。参加費五千円は高いけど、どう私のメルヘンキュート」
 杏がそう言った。
「似合ってるよ」
 幸久はDJオタクの格好をした。
 忠信は海賊の仮装をしていた。
 僕達の誰かが受賞して賞金をもらっても、僕達みんなのものとして、イーグルビール代にあてる約束をしていた。だから僕達は自分が選ばれなくても僕達の誰かが受賞すればそれでいいのだった。
「それにしても早見遅いわね」  
 そのとき、
「バタン」
 ドアが開き、紫雲無道が入ってきた。早見を担いでいる。早見は血だらけで痣だらけでもある。
「どうしたの?早見大丈夫?」
「大したことねえよ。地元の走り屋にちょっと喧嘩売られただけだよ。あいつら競争で俺に勝てないから、俺のランボルギーニ・カウンタックを傷つけようとした。愛車を傷つけられるくらいなら、殺された方がましと思って十対一で喧嘩したよ」
「この青年が男達に囲まれてリンチを受けていたから、私が助けた。あのままでは、殺されてしまうと思ってな」紫雲無道が言った。
「あれくらいで死ぬほどやわじゃねえよ。十対一じゃさすがに分が悪くてリンチみたいになったとき、このジジイ……いや住職さんが助けてくれたんだ。見かけによらず、すごい大きい張りのある声が出るんだ。この住職。一喝したらみんな逃げて行った。すげえ気迫だったよ」
「ありがとう住職さん。早見君を助けてくたのね。でも警察には連絡したの?」
「私もそれを勧めたんだが……」住職が言うと、
「俺も結構、地元のマッポを愛車で振り切ってるから、警察に行くと面倒なんだ。俺の愛車もマッポにマークされている」
「とにかく手当てしなきゃ」沙織が言うと、
「大丈夫だよ。自然と治る」
「ところでハロウィンパーティーの参加は当然無理よね」杏が言うと
「何言ってるんだ。当然参加するさ。せっかくビジネス・ウッドのカッコしてきたんだ」
「だって血だらけじゃない痣だらけだし顔もボロボロよ。住職さんここのパーティーは参加費五千円かかっちゃうの。今のうち帰ったら。ありがとうね。早見君を助けてくれて」
「パーティー面白そうだ。若者の刺激の機会は大切にしておかないとな。五千円払おう」
 二人とも五千円払った。
「どうする?住職さんも参加するって。趣旨分かってるのかな?ただいつもの住職のカッコしてるだけじゃない」
 しばらく僕達はイーグルビールを飲み、コンテストの結果が出るのを待っていた。
 審査員はこっそりパーティーにまぎれて、誰だか分からないように審査をしているそうだ。僕達はいつ誰かから見られているか分からず、コンテストの発表の時間が来た。
「コンテストの結果発表をします。当パーティーの賞は特別賞は賞金五万円、グランプリ賞はなんと十万円が授与されます」
「オー」「ヒュー」
 みんなの歓声が上がる。
「私のキャリーメルヘンキュートいけるかなあ?」杏が言うと、
「かぶっている時点で無理よ」
「特別賞は……」
「そこのゾンビ男の男性」
「そこ、そう君」
「え?俺?」
 早見が指された。
「本物さながらの鮮やかな血の跡、痣、見事特別賞です」
「これは本物の血。ゾンビじゃなくて俺はビジネス・ウッド……」早見が言うと、
「しっ!黙ってなさいよ。五万円もらえるのよ」
 杏がそう言って、早見が舞台で賞金をもらい戻ってきた。皆、
「リアル。本物のゾンビみたい。すごいメイクどうやったんだ?あのゾンビ」
 そんな声が上がった。
「だからゾンビじゃねえよ。俺はビジネス・ウッド……」
「しっ!黙ってなさい」
「そしてついにグランプリの発表です。本日、映画の名俳優のコスチューム。いろいろなゆるキャラ、話題の芸能人の仮装、はやりの芸人、いろいろ手の込んだ参加者が集まりました。そんな中、厳選たる審査の結果、斬新な服装をしていた方が選ばれました」
「住職さんです。はい、そこの住職の仮装をしている方、前に上がって」
「えっ?わしか?」
 今度は紫雲無道が指された。
「そうあなた」
「あれは仮装じゃねえだろ」早見が言った。
「しっ!黙ってな」杏が言った。
「見事グランプリに輝いた方にインタビューをします。今何をしてその格好ですか?」
「服装のことか。わしは住職をしているものだ。いつもこの服だ」
 笑いと歓声が上がった。
「すげーなんかそれっぽい」
「本物っぽいよ。マジリアル」
 どんどん歓声が高まる。
「ハロウィングランプリを受賞したところで、何か一言」
「うむ。西洋の祭りごとも、皆が幸せになるのであれば、それもまた善き計らいと思う」
「ヤベー、カッコよすぎじゅうしょくさん」
「じゅうしょくさーん」
 早見は気にしている。
「大丈夫か?あのおっさん。演出じゃなく普通に喋ってるだけだぞ」
「しっ」杏がまた止めた。
「本日の賞金十万円はどう使うとか考えていますか?」
「賞金十万円?では、東日本大震災でまだ傷跡の残っている地域へ全額寄付しよう」
「全額寄付?それはキャラじゃなくて本当に全額寄付するんですか?まさかねえ」
「いや、本当に全額寄付するつもりだ」
「じゅうしょくさーん、カッコよすぎー」
「キャーカッコイイじゅうしょくさーん!」
「じゅうしょく」
「じゅうしょく」
「じゅうしょく」
 みんな住職コールで一体になった。住職は合掌をしてお辞儀をしている。
 早見が、
「本当、大丈夫か?このノリ」
「大丈夫よ。もう今さらどうこうなるものでもないでしょ」杏が言った。
 とにかく僕達はその晩ハロウィンパーティーを満喫した。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一