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東京人コンパ

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 僕達はそれ以来、ダーツバーで会っても、久美のことに触れないようにした。皆、気にかけているのだろうけど久美の話題は絶対にしないようにしていた。
 それと同時に久美とも会えなくなった。
 彼女は完全に姿を消した。
 なぜかは分からない。大学の事務員に訊いても、
「いくら友達でも、他の学生の情報を教えることはできません。お友達なら、直接本人と連絡が取れるんじゃないんですか?」
 そう答えるだけだった。

 ある日曜日の朝、僕達はダーツバーで音楽を消してもらって、映画を観ることにした。映画は一九九〇年代に作られたかなり古い映画だ。早見がそれを観て、僕達に勧めるから僕と早見と幸久と忠信と晴菜、沙織、杏でそれを観た。
 そこに出ていた綺麗な紅葉の並木道がとても印象的だった。僕達は、それを観終え、それなりに感動した。
「なあ、いい映画だろう。いい映画だろう」と早見が言うので、皆良かったと言っておいた。どっか昼ご飯を食べに行こうと僕達は珍しく、市街地に向かった。
 十和田の大学通りという通りを歩いていると紅葉の並木道があった。その綺麗な並木道はちょうど、映画の中のそれと似ていた。
「何か映画の中にいるみたいだな」
 忠信が言うと、皆も、
「本当映画の中みたい、あれさっきから、外人がこっち見てる。こっち来るわよ」
「エクスキューズミー.キャンユーテルミー.ザウェイトゥーディステンプル?」
 杏が、「誰か英語話せる人いる?」と言うと誰もいないようなので、忠信が、
「ごーういずあす.ごー.ごー」と片言の英語で対応した。
 そして僕達はその外人と一緒に正方寺という寺に向かった。寺に着くと、早見が、
「ちょっと、俺トイレだけ借りてくる」
 杏と晴菜も「私も」と言ってトイレに行った。住職らしい人に断り、トイレを借りた後、礼を言って、帰ろうとした。するとそこの住職は
「ちょっと待ちなさい。外国人に道案内してくれた君達、君達どこから来たの?観光客にしては持ち物も服装もラフすぎる」
「ああ、僕達は皆、東京出身ですが、十和田に住んでいるんです」
「皆、東京からきているのか。それで言葉も……実は私も藤沢という神奈川県に住んでいたんだ。よかったら寄って行かないか?何かの縁だ。禅を体験してみないか?精進料理も出す。もちろんお金は取らない」
「どうする?」幸久と杏がそう言い、
「お金取らないって言ってるんだからいいんじゃない。ラッキーだよ。面白そうな体験じゃん」と忠信が言った。
「禅?ちょっと待て、俺は生まれてこのかた、五分以上正座をしたことないぞ。最高で五分」と早見が言うと、
「大丈夫よ。なんとかなるわよ」 
 杏はそう言って無理やり早見を後ろから押した。
 僕達はまず精進料理を振る舞ってもらった。菊のおひたし。水菜とみぞれ豆腐、サツマイモのご飯、かぶのお吸い物、それに柿の和えものも出た。そして禅が始まった。僕達はお堂の前で正座をして皆、目を瞑った。
 住職がまず、早見に、
「てい」と叩いた。
 しばらくするとまた早見が、
「てい」と叩かれた。
 次は杏が叩かれた。
 また早見が叩かれた。
 その後も早見が叩かれた。
 忠信が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 杏が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見が叩かれた。
 早見ばかりが叩かれるの僕達は笑いをこらえるのに必死だった。心の乱れだろう。笑いそうになると僕も叩かれた。その後も早見が叩かれ続け、それにつられて皆、笑いそうになったものが叩かれるということの繰り返しになった。
 僕達は禅を終え、住職の話を聴いて、そして住職と別れた。住職は、
「私は紫雲無道という。また今度来なさい」そう言って皆、紫雲無道から離れたところで、
「二度と来るかよ」早見はそう小さな声で言った。杏は完全に寺から離れたら、
「早見、笑わせないでよ」
「本当、笑いこらえるのに必死だったんだから」沙織もそう言った。
「知らねえよ。あのジジイ。何度も同じ人間、叩きやがってよお。精進料理もまずいし、味ないし。口直しにラーメンでも行こう」
 そう言って僕達はラーメン屋に行った。
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一