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東京人コンパ

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次の日の朝僕はテレビをつけた。ニュース番組だった。奇しくも僕がテレビをつけたタイミングで、小柳証券の派遣社員の情報流出問題が流れた。
 例のニュースだ。それにしても昨日の女の電話は何だったんだろう?僕に何かを知っているか聴こうとしているようだった。つまり僕が久美の友達で久美が何かを知っていて、そして僕は久美から何か秘密を聞いているのでは。向こうはそう思ったのだろう。でもなぜ僕が久美とダーツバーでたまに会うことまで調べ上げたのだろう。僕の実家まで知っていた。ということは東京人コンパの他のメンバーのことも調べ上げみんなにも、いかがわしい電話をかけているのでは。そうかもしれない。僕はいつもどおり学校に行き、六時頃に、いつものダーツバーに行った。杏と沙織がイーグルビールを飲みながらそこにいた。
「おう、草食系モテ男。どうした?そんな顔をして。財布でも落としたか?」と杏が言った。
 相変わらず、杏はSキャラで僕に訊いてくる。
「そんなこと言うもんじゃないわよ。ねえ、宮澤君。私はそんなこと言わない。宮澤君にいつも優しく接するわ」微妙な優等生キャラの沙織もそう言ったが、沙織は続けて、
「でもどうしたの?宮澤君。落ち着きのなさそうな顔よ。悩みがあるなら言いなさい」
「いや、ちょっと、皆に訊きたいことがあるんだ」
「何?」
 二人は訊いた。
「あの……つまり……君達のところに何かいかがわしい電話かかってこなかった?昨日でもここ最近に……」
「電話?」
 二人はきょとんとしていた。
「ああ、そう言えば早見君から電話があったな。地元の人の走り屋と競争して勝ったは勝ったけど、相手の車が事故を起こした。こういう場合見舞いになんか行くべきなのか。真面目な沙織だったら分かるだろ。教えてくれって」
 沙織がそう言って、
「でも私真面目だから走り屋の人達のルールとか全く知らないって言ってやったわ」
「そんで、早見君はどうしたの?」杏が言った。
「沙織って冷たいって電話切っちゃった」
「それだけ?」
 僕は二人に訊いた。
「それだけって何よ。それだけでも随分いかがわしい電話よ」
 沙織が言った。
「何?宮澤君の言ういかがわしい電話って『私旦那が出張で寂しいわ。今夜私の家に来ない』とかいう電話?」と杏が言った。
 杏と沙織は二人で笑った。
 僕は当たらずとも遠からずだったので笑えなかった。
「まあ、ないんならいいや」
 僕がそう言うと、
「何?変な人。ところで早見、何?地元の暴走族と競争してるの?大学生が地元の無免許高校生と競争しているってこと?」
 杏は言った。
「そうみたい。なんか彼走り屋の世界では有名らしくて、大田区品川区辺りでは第一京浜の早見って言ったら、東京で知らない人はいないくらい有名らしいのよ。それで、ここ青森でも、東京の早見として、彼を知っている走り屋がいっぱいいるらしくて、毎日のように彼、挑戦状をもらってくるのよ」と沙織は言った。
「早見ってそんなすごいの?ただのナンパ男だと思っていたけど」
 杏は言った。
「まあ、彼は自分で言ってるだけだけど、私にはいつもしてくるわよ。彼の自慢話。喧嘩も大森辺りでは誰にも負けなくて有名だって」
 そうこうしているうちに、忠信と幸久がやってきた。温和でリーダーシップのある忠信はまた海に行ったのか、日焼けの痕がある。そうして、二人はイーグルビールを取って、僕達のところに来た。忠信は僕の分も取ってきてくれて、
「飲まないの?」と僕にイーグルビールを差し出した。
「ありがとう」
「宮澤君、彼らに訊かなくていいの?なんかエロい電話とかかかってこなかったって」
 杏がそう小馬鹿にしながら言った。
「えっ?何の話?」
 幸久が訊いてきた。
「エロい電話なら大歓迎だけど、残念ながら一度もかかってきたことはないな」と忠信は言った。
 二人とも何も知らないようだ。
 そのとき早見が来て、杏がまた変な形で早見に質問した。
「俺そんな電話なんかの趣味ねえよ。やるときは本番やる」と早見は言った。
「ちょっと、セクハラ発言。女子がいることをもっと気遣って欲しいんだけど」
 杏がそう言うと、
「お前がそもそも最近エロい電話にはまってないとか訊いてきたんだろ」早見が言い返した。
「それより早見、友達が事故っちゃったんだって?」と杏が言った。
「友達じゃねえよ。ここの地元の奴らいつも俺と勝負したがるんだ。実力もねえくせに。金星を取りたいんだよ。まあ、一度も負けたことないけど」
「何キロくらい出すの?スピード」
「まあここの奴らは時速百五十キロ早くて百六十キロくらいかな。それに対して俺は時速百八十キロくらい」
「危なーい。何してんのあんた」沙織が言った。
「まあ俺も、もう二十歳間近なんだし、走り屋をこのまま続けるのもどうかなあと思うんだけど、ここ青森に来て辞めようかって何度も思ったんだけど、現に毎日のように、勝負してくる奴はいるし、俺は俺の有り余ったエネルギーを失いたくないし」
 幸久が、
「じゃあ、そのエネルギーを別のものに転換したら?」
「うん。その方がいい」忠信もそう言った。
「そうかあ」早見はそう言って、また皆でイーグルビールを飲んだ。そして早見が発注した分のお金を払おうとすると、
「あれ、また違う。百五十本しか発注していないのに三百本注文していることになってる」
 早見がイーグルビールの注文のことで店員に間違いを指摘した。
「ええ!また?」杏も言った。
「おかしいな。ずっとキッチンの中のファイルに挟んでおいて、お客さんの手の届かないところに置いてあったのに」と店員が言い、店員の中で、「誰か心当たりない?」そう言って、
「心当たりある人いない?」僕達もそう言って皆黙った。「あの……」沙織が言った。
「何?」杏が言った。
「どうしたんだよ」早見も言った。沙織がおどおどしながら、
「あのこの前の発注ミスのとき久慈君が疑われて、数字を見比べたでしょ。結局筆跡が全然違うって」
「ああ」早見が言った。
「あの書き加えた方の字、なんか似てるの」沙織が言った。
「何?誰の字に似てるの?」杏も詰問するように訊いた。
「それが、私も信じられないんだけど、ただの思い過ごしだと思うんだけど、あの……この間の大学の講義の数学Bのときに隣に座った久美の字に似てるの……」と沙織が言った。
 一瞬みんな凍りついたように黙った。
「まっさかあ」皆がすぐさま笑いながら言った。
「久美ちゃんに限って」と言った。「字が似てるって数字だろ。数字なんて似てることもあるよ」幸久が言った。
「でも私本当分かんないと思う彼女、自分でも自分が分かんないほど、不安定になっているし、そう言えば夜もみんなと帰らないし」と杏がそう言った。
「えっ?杏も本気で疑ってるの」忠信が言った。そのとき晴菜が入ってきた。
「どうしたの?みんな」晴菜が聞いたので沙織と杏が説明した。晴菜は、
「そう言えばこの間ダーツバーから久美が九時頃帰って、私も帰ろうとしたとき、もう十一時頃だったか、この近辺で久美に会ったの。久美タクシーに乗るところだったけど、二時間くらいの間、何してたんだろうと思って」
作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一