オヤジたちの白球 1話~5話
「任侠といえば、義理と人情を秤にかけりゃ義理が重たい男の世界・・・
だろう。
なんだよ。裏側というか、実態は違うのか?」
「表向きだけさ。義理だ恩だときれいごとを言っているのは。
いつだって相手のスキを見つけて、陥れて、出し抜くために明け暮れている。
どうしょうもない世界だよ。いまどきの任侠の世界なんて」
「そういえば、総長の愛人になったという噂を聞いたことがある。
ホントだったんだ。おまえが総長の愛人になったという噂は?」
「昔のことさ。でもさ、ひどい話さ。
総長がガンで倒れた。
でも本妻は、涼しい顔を決め込んで見舞いにも来ない。
組の若い者にいいつけて、着替えを病院へ届けてくるだけだ。
ぜんぶの世話を、あたしに押し付けてきた。
結局。亡くなるまでのまる4年、あたしは、総長の看病に明け暮れた。
なんだったんだろうねぇ、看病に明け暮れたわたしのあの4年間は・・・・
・・・・あら、いやだ。
余計なことを、無関係のあんたに、なんでペラペラ喋っているんだろう。
あたしの秘密が、ぜんぶ丸裸になりそうだ」
「へへへ、当たり前だ。
居酒屋ってのは、客の話を聞くのが本業だ。
酒の味は何処で呑もうが、ぜんぶ同じだ。
味が違うのは話を聞いてくれる相手が、自分の目の前に居るからだ。
人は、おしゃべりをしたがる生き物だ。
酔えば誰でも、本心が出る。
心の底から愚痴をこぼしたい時もある。ストレスもたまっている。
だが、安心して吐き出す場所がない。
みんな不満や愚痴を我慢しながら、その日その日を生きているんだ。
居酒屋は庶民が、鬱憤を吐き出すたまり場だ。
俺はみんなの愚痴を聞くことに、特化している」
作品名:オヤジたちの白球 1話~5話 作家名:落合順平