オヤジたちの白球 1話~5話
「これ以上、その手には乗らないよ。
また来るからね。
あんたの世話ばかりじゃなくて、うちにはもうひとり男が居る。
そろそろ帰ってそいつの面倒を見てあげないと、あとが厄介なことに
なるからね」
「なんでぇ。居るんじゃねぇか、いい相手が」
「そうさ。首を長くして、あたしの帰りを待っている。
そいつは、あたしの言う事ならなんでも聞くし、夜は添い寝もしてくれる。
最高の相手さ。あたしもあの男には、デレデレさ」
「相手がいるんじゃ仕方ねぇ。
長い時間、引き留めて悪かったな。さっさと帰れ。
ありがとうよ。御馳走さん」
「あら。あたしに男がいると分かった瞬間。
手のひらを返すなんて、あんたもそうとう薄情な男だねぇ」
「ひとの恋路を邪魔すると、馬に蹴られて死んじまうからな。
やっぱりおれとおめえは縁がなかったんだ。
とっとと帰って、添い寝してくれる男と仲良くするがいい。
おいらは冷たい布団で、膝を抱えて寝ることにする」
「なんだぁ・・・妬いてんだ、大の男が。
そうよ。家に帰れば、最高のパートナーが待っているんだ、あたしには。
そういうことですから、あたしゃもう帰ります。
無理しちゃだめだよ。いつまでたっても、腰が治らないからね」
カチャリと玄関の鍵の開く音がして、陽子の匂いが消えていく。
(苦いな、このタバコは・・・)
最後の煙を吐き出した祐介が、枕元の灰皿へポンと煙草を投げ捨てる。
(6)へつづく
作品名:オヤジたちの白球 1話~5話 作家名:落合順平