オヤジたちの白球 1話~5話
おかゆはお米から炊くのが基本。
ご飯で炊いたものは「入れがゆ」と言う。白米から炊くものが「炊きがゆ」。
弱火で時間をかけて炊き上げると、米の旨みがそのままおかゆになる。
久しぶりの食事を済ませ、胃袋が満たされた祐介が布団の上で腰を伸ばす。
腰を伸ばすこと自体が、久しぶりだ。
凝り固まっていた腰周辺の筋肉が、ごりごりと音を立てて動いていく。
「大丈夫、祐介?。
いきなりそんな態勢をとって。痛みが再発してもしらないよ」
お茶を飲んでいる陽子が、祐介へ牽制球を投げる。
「大丈夫さ。君のおかげだ。
飯を食ったらがぜん、元気がみなぎってきた。
まる3日間。食うものも食わず、喉が渇くと水だけ呑んで我慢してきた。
食いたいのは山々だが、飯を食うとトイレへ行くのが大変だ。
持つべきものはやはり、君のように優しい、幼馴染みだな」
「惚れた弱みだもの、仕方がないじゃないか。
あんたとわたしは、どこまで行っても交わらない2本のレールみたいなものだ。
あれから30年。世間ではこういうのを、腐れ縁と言うんだろうな」
「腐れ縁?」
「あっ。気にしないでおくれ。いまのは言葉の綾さ。
さらっと聞き流しておくれ。
純情可憐で何も知らなかった、あの頃の初心(うぶ)な私が、懐かしいねぇ。
あの頃のわたしは、いったいどこへ消えちゃたんだろう・・・」
「昔のままとは言わないが、いまでも充分に綺麗だぜ、お前さんは。
50歳になったばかりだ。
それだけの美貌があれば、そのへんに転がっている男のひとりやふたり、
簡単に手玉にとれるだろう」
(5)へつづく
作品名:オヤジたちの白球 1話~5話 作家名:落合順平