③全能神ゼウスの神
リカ様はそのまま無言になり、しばらく瞳を揺らしながら私を見つめていたけれど、何かをふり切るようにサタン様をふり返った。
「サタン。とりあえず、こいつを上に上げな。」
「はーい♪」
サタン様は軽く返事をすると、ひょいっと指を上げる。
その瞬間、胸ぐらを掴まれたように上に体が持ち上がった。
「わ…っ!」
容赦ない力でほとりへそのまま投げ出され、したたかに体を打ち付ける。
「痛った!」
私が呻き声を上げると、リカ様がため息を吐きながらほとりへ身軽に飛び上がってきた。
「相変わらず荒っぽいな。」
「あはは、すみません♪」
ニコニコ嬉しそうに謝る様子からは、相変わらず全く反省を感じられない。
リカ様はもう一度ため息を吐くと、サッとシャツを脱いだ。
「おまえ、着替えは?」
言いながら、どんどん服を脱ぐリカ様。
「サタン様に預けてますけど…そ…それ以上は脱がないでください!!!」
顔を逸らしながら叫ぶと、リカ様は最後の砦の下着を脱ぎかけて、動きを止めた。
「今さらじゃね?てか、このままだと冷たいし。」
意味がわからないといった表情をしながら、一応こちらに背を向けて下着を脱ぐ。
(結局脱ぐんだ!!)
(そりゃ何回も全裸見たけど、見慣れることなんてないから!!)
「…ふーん…。」
リカ様は、脱いだ服を、ぎゅっと搾った。
「!リカ様、ゼウスじゃなくなったのに、心が読めるんですか!?」
(全能神じゃなくても聞こえるってこと?)
「え?」
珍しく動揺した様子で声をあげたリカ様だけれど、すぐにいつも通りの無表情になる。
「…いや、読めなくても…おまえわかりやすいから…。」
なんとなく、歯切れが悪く感じるのは気のせいだろうか。
そんな私たちを意味深な笑顔で見ていたサタン様と、目が合う。
「フェアリーちゃん、はい着替え。」
サタン様が私に着替えを手渡す横で、リカ様が木陰に放り出していた荷物から着替えを出すのが見えた。
「女性にここで着替えろって言うのも酷ですよね~。」
サタン様の言葉に、リカ様が服を着ながら冷ややかな視線を向ける。
「…。」
普通の人なら背筋が凍るほど恐ろしく目を合わせることもできないと思うけれど、サタン様は笑顔でリカ様を見返した。
「お近くなんでしょ?隠れ家。」
「…。」
リカ様はふっと目を逸らすと、無言で濡れた服と荷物を掴んで立ち去ろうとする。
「行くよ、フェアリーちゃん。」
サタン様が、私を誘いながらリカ様の後を着いていこうとした。
「着いてくんな。」
素早くふり返ったリカ様が、鋭く睨んでくる。
「じゃ、フェアリーちゃんだけ。」
サタン様がにっこり笑顔を返すと、リカ様が私を冷ややかに見下ろした。
「もう、私に関わるな。」
明らかな拒絶に、ショックを受ける。
「え~、せっかくフェアリーちゃん連れてきたのに」
「おまえ、なんでこいつの魂、刈った。」
リカ様が、サタン様の胸ぐらを掴んだ。
「…とりあえずフェアリーちゃん、濡れたままじゃ可愛そうなんで、隠れ家で着替えさせてあげながら話をしませんか?」
サタン様が笑顔ながら凄みのある表情でリカ様を見上げると、リカ様が黒瞳を細める。
二人の間で、無言の応酬が繰り広げられるのを、私はハラハラしながら黙って見守るしかなかった。