③全能神ゼウスの神
恐ろしい真実
「キミを襲った男の記憶を巻き戻すよ。」
サタン様のスマホの画面には、巻き戻される映像が映っている。
「あ、ここ。こいつが依頼者。」
「…。」
停止した映像には、見知らぬ男性が映った。
無言になる私に、サタン様がチラリと視線を送る。
「でも、こいつはただの橋渡し役。本当の依頼者は、この犯人の男とは会ったことないんだよ。」
サタン様が喋ってる間、再生されている映像には、私の写真を手渡す姿が映っていた。
「だからさ、この橋渡し役の男を俺、探したんだ。」
「すごい!」
「だろ~?」
ニヤリと笑ったサタン様は、得意気な様子で私に別の映像を見せる。
またもや、どんどん巻き戻される映像。
「あ、ここ。」
「!」
停止した映像には、見覚えのある女性が…。
「知ってるでしょ?」
サタン様に顔を覗き込まれ、私はふるえながら頷いた。
「社長のお嬢さんです。」
「陽のオンナなんだよ、実は。」
「…え!?」
思わず大きな声をあげてしまい、私は慌てて手で口を覆う。
そんな私を見てサタン様はふふっと笑うと、スマホへ視線を移した。
「この橋渡し役の男、どうやら取引先の営業マンみたいだね。大きな契約をエサに、橋渡し役させたっぽいよ。」
言いながら、サタン様が動画を再生する。
『この女、消してくれたらお父様に言って、今後ずっとこの案件はそちらの会社と契約するようにするわ。』
『ありがとうございます!!』
『これ、相手の男に渡すお金ね。あなたはこっち。』
膨らんだ封筒を2つ受け取ったところで、サタン様が動画を消した。
「なんでお嬢さんが…。」
「って思うよね~。だからお嬢さんも探し出して~…よっと、ほら!」
(サタン様…ほんとに凄い…。)
サタン様が巻き戻す動画に、すぐに陽が出てくる。
二人が抱き合う場面で目を逸らす私に気づいたサタン様は、スマホを自分の胸元に寄せ目的のところまで隠すようにしてくれた。
「あ、ここ、ここ。」
サタン様が私の前にスマホをつきだしたので、私は恐る恐る画面を見る。
『え?桜井ですか?』
『そう。付き合ってるの?この間、一緒に食事に行って、その後その子の家に泊まってたでしょ?』
『あはは、よくご存知ですね。…付き合ってますよ。』
『別れて、私と結婚して。』
『…うーん…恨まれるの、嫌だからなぁ…。』
『じゃあ、会社からいなくなるようにしたらいい?』
『そうですねー…でも彼女が辞めてすぐ別れて、あなたと付き合い始めたら…それはそれで恨まれそうだしなぁ…。』
『そ…それなら、自殺するように仕向けましょうか?』
『…自殺?』
『生きていけないような目に遭わせて…。』
『自殺するタマかなぁ…。』
『じゃ、殺してもらうわ!』
『…怖い人ですね、お嬢さん。』
陽が色気たっぷりに微笑み、そのまま顔が近づいてきた。
その瞬間、サタン様が動画を消す。
「…てのが、真実。」
私の両瞳から涙が溢れた。
(あの事件以来ずっと陽を怖く感じていたのは…本能で感じ取ってたからかもしれない…。)
「リカさんは、これを必死に隠したんだよね。」
(リカ様…。)
「神の国にいるとこれを知ってしまう可能性があったから、リカさんはキミを還そうとしたんだね、きっと。」
私は顔を覆って、嗚咽する。
「ここで還して運命を変えたら、陽が諦めてキミを大事にするかもって、甘い期待を抱いたのかな。」
サタン様は、ふっと息を吐く。
「でもさ、そんな半端な敵じゃねーんだよ、あいつは。天使の顔して、自分の手は下さず、キミを抹殺しようとした。」
(お嬢さんを巧みに誘導してた…。)
(自殺だとサタン様のもとへ辿り着いてしまうから、御祓の泉に辿り着くように仕向けてた…。)
「今回は、神の国にいる陽がかなり関わっている。あちらでキミが陽に心を許さなかったから、こちらの陽を操ってプロポーズさせて、キミの心を取り戻そうとしたんだ。そしてもう一度愛情を取り戻してから、再び殺害計画を実行しようとした、と俺は思ってる。」
サタン様は大きく息を吐き出すと、車のドアを開けて外に出た。
そして、助手席のドアを開けてくれる。
「ちょっと長くなりすぎちゃった。親御さんに不審に思われるとマズイからさ、とりあえず今夜は帰りな。で、気持ちが固まったら連絡ちょうだいよ。」
言いながら、サタン様は私のスマホに自分の連絡先を入れた。
「陽はさ、何がなんでもゼウスの地位が欲しくて、時空のズレを利用して今までも人間の時の自分をずっと操ってきた。」
「…。」
「そしてフェアリーを探してて、キミを見つけた。それで、運命をねじ曲げて近づいた。あいつの目的は、こっちでまずキミを我が物にして、フェアリーの力でオーラを強大にする。そして人間社会で出世してそれなりの地位を手に入れ、正のオーラを周りの人間からたっぷりと得て更にオーラを強くする。で、神の国に来た時にゼウスに近い地位に就けるようにしたんだ。そんで、キミを神の国でも人間の時の繋がりを武器に我が物にして、最終的にゼウスとなる。」
真実を告げるサタン様に、リカ様が重なる。
『陽が出世したのも、ミカエルになったのも、フェアリーの力なんですか?』
『…純粋に、あいつの力だよ。そう思ってな。』
そう言って、頭を撫でてくれたリカ様。
『還っておまえがどんな目に遭おうと、私には一切関わりない。んで、またこっちに来ちまったら還せるなら還すし、還せなかったらどの神のとこへ行くか、行きたいとこを選ばせてやるし』
(リカ様…。)
リカ様の言葉に隠された本心が今ハッキリとわかり、私の心が決まった。
「サタン様。」
いつの間にか、サタン様の髪と瞳が黒くなっている。
でもこれは暴露でなく、変装だろう。
「今から、身の回りを整理します。明日の夜、迎えに来てくれますか?」
私の言葉に、サタン様が真剣な表情で、ゆっくりと大きく頷いた。