②全能神ゼウスの神
恐る恐る訊ねると、ゼウス様は目を丸くして私を見つめた。
そして、チョコレートを私の口に押し込む。
「いや。13から側室をそれなりの人数持ってたから、女は抱いたことあるし、欲情もしたことある。」
(ひー!13歳で既に側室!!)
「うん。だからヤりたい時はいつでもヤれてたから、それでそんなに興味ねぇのかもな。」
チョコレートを頬張りながら、淡々と言うゼウス様を、私は呆然と見つめた。
「こっちが『好き』って思う前に、向こうから『好き』って言われるから、『あ、そう。』てなってたし。特にオンナに興味ないのは、そこかもな。」
(いつでもお腹いっぱいだと、ごちそうに興味なくなるのと同じなのかな?)
「はは!さすが、なんでも食いもんに例えんだな!」
体型をからかわれたのに、明るく笑うゼウス様を見ると腹が立つより嬉しさでいっぱいになる。
二人で声を重ねてひとしきり笑った後、ゼウス様が深く長くため息を吐いた。
「はー……。こんなに腹の底から笑ったの、初めてだな。」
「…え?」
驚く私を見つめながら、ゼウス様は眉を下げる。
「人間だった時は、一瞬でも隙を見せれないから感情を常に見せないようにしないといけなかったけど、ゼウスになってからは宇宙の命運がかかってるから、感情を持つことすら許されなかったし。」
ゼウス様はふっとやわらかく微笑むと、私の後頭部に手を伸ばした。
「ここだと自由にできるけど、ひとりでいるから特に楽しいこともないし。」
そして、その手を優しく上下させる。
「おまえならここに入れるからさ。また、ここに一緒に来てよ。」
艶を含んだ視線に囚われたように、私は金の瞳をジッと見つめた。
「それは…還らなくてもいい、ってことですか?」
私の問いに、ゼウス様は真顔になり、撫でる手を止める。
そして数秒見つめ合うと、再び華やかな笑顔を浮かべた。
「ん。」
小さく頷くゼウス様に、私の胸はギュッと締め付けられ、甘く鼓動が高鳴る。
(…。)
思わず心の中で呟きそうになった本心を掻き消して、私は笑顔で応えた。