②全能神ゼウスの神
「人型の魂からオーラを抜きとり、そいつが霧散するのを見るなんて…私には無理だ。それに、それをヘラに見せたくないし、そんな姿を見られたくない…何よりヘラをその危険にさらしたくない。」
(…ゼウス様…。)
ゼウス様の想いの深さに、胸が切なく締め付けられた。
「ゼウスから堕ちてもペットを持てる地位に留まれればいいけど、どこまで力を失うか正直わからない。ペットを持てない地位に堕ちたら…ヘラを手放すか、エサとするかしかなくなる。」
初めて知る恐ろしい現実に、私の背筋がぞくりとふるえる。
(ゼウス様は、権力がほしいわけじゃないんだ。)
(人間の時も、死んでしまってからも、ヘラ様をただ守りたいだけなんだ。)
それが姉弟愛なのか、わからない。
そこに男女の感情があるのかもしれない。
ただハッキリしているのは、ゼウス様がヘラ様を何を引き換えにしても守ろうとしている、ということ。
それだけ大事に想っている、っていうこと。
そう思うと胸が締めつけられ、息苦しさを感じる。
(女はかつてモノとして扱われ、男の欲望の捌け口にされてきた。)
(たぶん、ゼウス様たちはそれが当然な時代を生きていただろうに、こんなふうに命懸けで守ってくれて、たとえそれで命を落としたとしても後悔していないと言われ…。)
私は陽の顔を思い浮かべる。
(…うん、陽にはきっと…ない。)
(きっと陽は、私の力が欲しいだけ。)
「陽が出世したのも、ミカエルになったのも、フェアリーの力なんですか?」
私がうつむきながら言うと、頭に暖かな重みが乗った。
「…純粋に、あいつの力だよ。」
ゼウス様が、私の黒髪に手を滑らせる。
「そう思ってな。」
あんなに人に触れられるのが怖かったのに、不思議と頭を撫でられても全然怖くない。
むしろ、心があたたかくなり、優しさで満たされる。
私に触れたゼウス様は、また全身が輝いていた。
それは泉でのように虹色でなく、神々しい金色で、よりゼウス様の美しさを際立たせる。
そこに、甘いココアの香りがふわりと香った。
「お待たせしました。」
テーブルに置かれたカップを見たゼウス様が、微かに目を見開く。
「ホイップ。」
おかわりのココアの上には、ホイップクリームが乗せられていた。
無表情だけどどこか嬉しそうに見えるゼウス様を、ヘラ様が微笑ましく見つめる。
(ほんとに甘党だなぁ。)
唇についたホイップクリームを舐めながらゴクゴク飲むゼウス様の様子に、私とヘラ様は視線を交わして微笑みあった。