忘れたの?
夢から覚める私。
「はい、起きて、起きて!」
居間のソファで居眠りしていた身体を揺らしたのは、旦那様でした。
「準備が出来ました。お・く・さ・ま」
促され、はっきりしない頭でテーブルに向かいます。
先に向かいの席に座った旦那様は、何か言いたげに私を睨みました。
「結婚3周年の料理、結局 僕が1人で作ったんだけど!?」
「…ジャンケンに負けたんだから、仕方ないよね?」
「少しぐらい手伝ってくれても、バチはあたらないんじゃないかな。」
旦那様の機嫌を直すため、私の手がワインの瓶に伸びます。
「はい、注いであげる」
苦笑しながら、グラスを差し出す旦那様。
「飲ませれば、ごまかせると思ってない?」
「実際、ごまかせてるし♡」
ワインで満たされたグラスを、旦那様はテーブルに置きました。
「次はワタクシめが、お酌させて頂きますよ、奥様」
私は、持っていた瓶を手渡します。
「苦しゅうない」
「…あんたは、何処の姫様だ」
グラスに伸びる私の手。
それが、途中で止まります。
「今日は、飲むの止めとこうかな」
「どういう風の吹き回し?」
「飲んだら寝ちゃうでしょう? この幸せが…夢になるといけないし」
「何を言ってるんだかるんだか…」
腰を浮かした旦那様は、腕を伸ばして、私にグラスにワインを注ぎました。
「─ これは、君の見ている夢だし」
「え!?」
「君は…僕を殺して埋めてるんだよ?」