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忘れたの?

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「…意識が戻った様だな」

 きつい何かの匂いで、無理やり覚醒された私。

 いつの間にか、座らされていた椅子の上で身を捩ります。

 そこは、抵抗していた独房ではなく、知らない部屋でした。

 1人の刑務官が差し出した紙が目に入ります。

 それは、私への死刑執行の命令書でした。

 凍りつく意識。

 刑務官は何かを読み上げますが、それは ただ鼓膜を揺らすだけでした。

 一瞬の沈黙の後、部屋に重い声が響きます。

「刑を執行する」

 立たされた私は、目隠しをされ、後ろ手に手錠を掛けられました。

「これは、夢よね!」

 身を揺すって抵抗しますが、数人の手で前方に引きずられます。

「夢なんでしょ!!」

 太い何かを巻きつけられる首、縄で纏められる足首。

「お願い!!! 夢だと言って!!!!」

 大きな音がして身体が宙に浮いた瞬間、頭の中に声が響きました。

「─ これは、現実だよ。」
作品名:忘れたの? 作家名:紀之介